第一話 玉ねぎの卵ぞうすい

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第一話 玉ねぎの卵ぞうすい

 夜の光に飛んでいく後姿にあっけにとられていた。隣からは、急いで取り押さえろという声がまだ、響いている。  隣?でも下が気になる、上ってくる者がわきにへばりつき、私に道を明ける。王子どこへというがかまわず大階段を降りた。  外に出て、上を見ながら下にいた人影があった場所へ。 辺りを見るが、布はどこにも落ちていない、持ち去られたか? 「明かりを」  足元に向けるが足跡一つ無い。  ん?  何だこれは? 「何かありますか?」  付いてきたものも足元に明かりを向けているが、私がしゃがみこんでいるのに気がつき、ウワッと声を上げた。 「声でかいよ」と耳を押さえ立ち上がる。  すみません。  私の側付きの物がため息をついた。 「魔物か?」 「え?」  指をさしたところに明かりを向け見る者達。  どれだ?と聞くとこれと指差したところにあったのはガリーアの足跡?花壇のやわらかい土の上に一つだけ、これが魔物かと聞くと兵士が手を広げた、同じ大きさ。でかいな。  私は上を見上げた、物を下ろすのに、何かをくるくる回していたのだが、その痕跡も無いようだ。 「王子、すぐにこちらへ!」上から身を乗り出す物。  急ぎ、隣の部屋に向かうと、あたふたとしている男たちの姿。  情けない。   バン!  扉を叩くと皆の動きが止まった。  パン!パン!と手を叩いた。一斉に止まった人の目がこっちに集まった。  部屋の中には明かりがともり、その全貌が浮かび上がっている。 物置となっていたこの部屋、別になんら変わったところはなさそうだが、無くなったのは甲冑や剣だろうか? 「ハハハ、やられたなー」 「王子笑い事ではありませんぞ」 「まあ良いではないか、あんなもの、この国で戦いなど皆無、金になどなりはしない、どこかで足がつく」 「…… そうでしょうか?」といったのは執事の一人、窓辺のカーテンのそばにいる。 「そうとは?」  男が窓辺のカーテンを動かした。   ガラガラ、ガシャガシャン!  物が落ちる音が響きます。  そこには金属の甲冑や剣達。それに驚く兵士たち。 「ハア?あやつは何を持って行ったのだ?」 「・・・あのー?」 「なんだ!」 「ここを」  みんなが振り向いてみたのは、ただの棚。何も入っていない棚をさしています。 「何もないではないか!」  確かこの棚は、その隣の扉を開けた。  ぎらぎらと光で輝くような趣味の悪いドレスがなだれ落ちてきた。 「ハハ、何で?ハハハ、アーッハハハ!ん?」  王子……?  何かがひらりと落ちてきたのを手にした。  カードか?  美しい、変わった文字で書かれている。  今宵、主君の誕生日を祝し、お宝をいただいた。                    ル・ラータ。  ル・ラータ?  彼女が!?  くっくっくっ。 「いい、いい、非常にいい、あーっハハハ!」 「王子どういう事ですか?」  窓辺に行き、下を見て上を見上げた。  ん?  キラキラ光るもの、手を伸ばし取ると銀色に光り輝いている。 「糸ですか?」 「なんの糸かわかるか?」 「調べさせます」 「あと魔物の探索を」 「え?」 「え、ではない、言い渡したぞ」  はい!と敬礼する者達。 「王子、どういう事ですか?何が起きたのですか?」  ふん、来たのはこの城の兵士を牛耳る兵隊長、王妃の腰ぎんちゃく。 「それを探るのがお主らの務めではないのか?メイドに聞け、はーたのしい、俺は寝るぞ」  寝るって、泥棒の捜索はよろしいのですか?とこそっと聞く私の部下。  フン、どうせ。 「こいつらに任せる、どこまでできるかわからぬがな!」  聞こえただろうか? 「お休み!」  みんなは首を曲げるばかり、賊は何を盗み、どこへやら?  なにが無くなったのですか?お教えください王子!という声が響いたとか響かなかったとか……。  部屋に入り二人きり、執事長に話しかける。  宝物庫、たいそうな物を作るより、普通の部屋でいい、ましてや普通に物置として使っていたならば泥棒などはいる訳がないとアソコにしたのに、お宝には手は付けていなかった。内通者か?  内通者がいるかもしれないと?  いやー、いたのなら、あの宝石や金たちに手を付ける可能性が高い。あの棚に置いてあったのはドレスや下着、布類だ、そんなものどうするのだ? そうですね? 「これを見ろ」 「カード?ですか……、誕生日!では今日の晩餐会に紛れ込んで」 「だろうな、みんなが疲れ寝静まるのを待ったというところだろう?」 「すぐに外からのものを調べねば」 「いや、ほっとけ、少し考えがある」  はあ。  たった数刻前までは、いやな人との付き合いにうんざり。  目の前で頭を下げる、ここでもかと言わんばかりに飾り立てた女に吐き気を覚え、早く終わることだけを考えていたが、クックックッ、あの瞳、間違いない。 「黒い髪のように見えた、サラサラと流れる長い髪、光に当たって美しかった。そしてあの驚いた目。間違いない、言い伝えならば。またあえる、きっと。ル・ラータ・・・ラータ・・・ネズミか?あはは、愉快、愉快」  王子は銀色の糸を手に部屋から月を見ていたのでした。
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