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この町は、共同墓地は共同墓地でも、罪人の遺体を葬るために作られたものだという。
長い長い王政が続いていた間、無数の罪人が――大勢の冤罪者を含んで――ここに投げ捨てられてきた。
おかげで、王政が倒れて墓地が潰され、家が建つと、その土地代と建物代は格安で、僕にも住むことができたわけだが。
つまり、そんな死者たちがこの世の終わりに大量に起き上がってくるのが、この町というわけだ。
国内のほかの墓地では、死者は悼まれ、安楽を祈られ、大切に葬られてきたわけだから。
町を何歩か出て、振り返る。
夜空をアスファルトで、真っ暗な町。
そのアスファルトの道の脇で座り込み、寝転び、暮らす人たち。
王政が倒れた後、市民議会の動きは早かった。
この町のもと墓地であるあらゆる場所を、アスファルトでふさいだ。
一ヶ月ほど前から、夜が明けない。
朝が来ない。
ずっと夜が続いている。
この世の終わりは、既に始まっているのだ。
しかし、亡者たちは地面の上に溢れてこない。
地表がアスファルトの道路で覆われているからだ。
この黒い一枚の板の下は、無数の亡者たちがぎゅうぎゅう詰めにひしめき合っているだろう。
その頭で、懸命にアスファルトを持ち上げて押し破ろうとしているだろう。
僕は毎日、彼らの頭の上を踏みつけながら暮らしている。
いつか限界が来た時、爆弾がはじけるように、彼らは一気に地表に飛び出してくるのだろう。
振り返った町は、長く長く続く夜の中に沈んで、静かだった。
アスファルトのひび割れから、ちらりと、下の人と視線が合う時がある。
道端で暮らしている人たちなんて、そんなことはしょっちゅうらしい。
僕は前へ向き直って、黒く固い道を歩き始めた。
トロリーバスの停車場は少し遠い。
通りすがりのコーヒースタンドで、熱いコーヒーを買った。
幸せな気分だ。
幸せのためには、熱いコーヒーが必要だ。
咳が出る。
その度に、振動で、体中の骨が痛む。
太陽に当たっていないため、ビタミンDが欠乏し、低カルシウム血症にかかっているのだ。
病院へ行かなくては。
命よりも高価な健康を買いに。
やがて道の下から這い出てくるであろう亡者たち。
あれを見て、命が尊いなどと誰が思うだろう。
生きていさえすればいいと、この町の誰が思うだろう。
この町を見た誰が、人間として生きていたいと思うだろう。
報われたいと思って生きてきた。
なにかに尽くした分だけは、見返りがもらえるはずだと信じてきた。
でもそれはどうやらもう無理らしくて、誰もみんな、もう亡者の仲間入りがしたくなったり、亡者になる前に自分の話を聞いて欲しくて、ネットワークの中に入り浸りになったり。
どうやら人は、この世の終わりを迎えるにあたり、この期に及んでみんな少しずつ寂しがり屋。
終
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