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第17話「何が不安なのかしら?」
(UnsplashのCaroline Hernandezが撮影)
「えええっ!? じゃあ、あのあとプロポーズ?? 映画みたい―!」
月曜日の昼休み。
あたしとスミレは会社の近くのカフェでランチを食べている。
ついさっき、スミレに昨日のプロポーズを報告したところだ。
「ごめん、スミレが大変な時なのに……」
「むつみ、それとこれとは話が違うよ。
青井さんとのことは、前から決まっていたも同然だもん。じゃあ、これからお互いの家へ挨拶とか?」
「うん、とりあえず青井さんがウチに来ることになってて。ほら、養子の話があるから……。
彼は家族運がないひとなの。青森に会ったこともない伯母さんが一人いるって聞いただけだし」
「そうなんだ……むつみ、よかったね」
「うん……」
あたしの返事が微妙だったんだろうか。スミレはぴたりと箸を止めた。
「何か、気になるの?」
あたしは正直に言った。
「爽太さん、仕事は真面目だし、家事もやってくれる……ねえ、スミレ。
あたしは何が不安なのかしら?」
そこではじめて、スミレも考えこんだ。
「青井さんは性格もいいし、顔もまあまあ。ウチの会社は超安定企だから、お給料だって平均以上もらってるでしょ。婿養子も了承済み……何も問題ないじゃない」
そうなんだ。どの角度から考えても、全然問題はない。
ただ、あたしの中にほんのりとした不安があるだけだ。
考え込むあたしを見て、スミレが言った。
「ねえ、そんなに気になるなら『賢者』に相談すればいいんじゃないの?」
あっ、とあたしは叫んだ。
そうだ、『賢者』だ!
身近に最高の恋愛アドバイザーがいるのに、相談しないなんて、もったいない!
あ、でも予約がいっぱい……。
考えていることがあたしの顔に出たのか、スミレはにやっと笑うと、こう言った。
「ねえ、むつみ。あたし、今日の終業後に『賢者』と会う約束をしているの。土曜日の報告をするっていうことで。
でね、この間のカフェ『リリー』で待ち合わせてるのよ。
一緒にきて、相談する?」
「……行くわ。高瀬さんに頼んでおく」
そう言うとスミレは笑って、
「むつみの気のせいだと思うけど、心配なら相談したほうがいいわ。あの『賢者』、正答率120%っていうの、嘘じゃないもの。あたしが身をもって証明したわ」
「うん……たいへんだったね、スミレ」
「そうね。でも土曜日に何もかもがはっきりわかって、気持ちの切り替えができた、っていうのもあるの。
高瀬さんに『ダメンズ係数』を算出してもらって、良かった。いいきっかけになったのよ」
「スミレ、でもつらい時は言ってよね……」
スミレは大きな目を潤ませて、うなずいた。
ほんとだ。高野さんの正答率は100%を越えている。
だからこそ、ちょっと見てもらうのが怖いっていうのもあるんだけど。
爽太さんの『ダメンズ係数』が1000を超えていたらどうしようって、考えないことも、ない。
でも、大丈夫。
あたしは爽太さんを信じている。
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