131人が本棚に入れています
本棚に追加
第18話「正答率120%の『賢者』」
(UnsplashのMichelle Dingが撮影)
金曜日に来た『リリー』に、月曜日の夕方また来る、というのは妙な気持だ。そしてあたしとスミレは、金曜日と同じ席に座る。向かい側にいるのは『総務の賢者』、高瀬さん。今日は高瀬さんだけだ。
そして『賢者』の大事な道具、巨大な電卓が置いてある。
「土曜日のこと、ありがとうございました」
ぺこり、とスミレが頭を下げる。高瀬さんはうなずいて、
「あのあと、山中さんからもメールをいただきました。名古屋観光がとても楽しかったそうですよ」
「こっちも楽しかったです。なによりもスッキリと一線が引けました。これからしばらくは、自分の事に集中します」
「それがいいと思います。さて、あなたの事ですが」
高瀬さんは几帳面にあたしの方を向いた。電卓もエントリーシートも、あたしの方へ向ける。
ちゃっ、と電卓の上で手をかまえた。
「事前のエントリーシートから、ざっくりと計算しました。
『デートは週に2回、1回は平日で1回は週末』……プラス120点。
『家事は分担制』……プラス70点、
『ケンカの回数は月に1回以下』……プラス「380点、
『定職がある』……プラス890点、
『暴力を振るわれたことはない』……プラス960点」
ぱちり、と高瀬さんは電卓をたたき終えた。
「今回のエントリーシートには経済的な面があまり含まれていませんでしたが、青井さんは当社に勤続6年。勤務状況にもめだった問題が見当たりませんでしたので、考慮しませんでした。
我が三ツ星機械は、業界でも有数の安定企業です。給与体系も決まっていますし労組もあります。現状ではマイナス要素を算出する必要はないと思います。
つまり計算の結果、『ダメンズ係数』はマイナス2420点。つまりダメンズではない、という事です」
最初のコメントを投稿しよう!