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第20話「大丈夫かね、この結婚?」
(Unsplashのinsung yoonが撮影)
それから二週間後、爽太さんはあたしの部屋へ引っ越してきた。荷物はちょっぴり。服とか、あんまり持っていない人なんだな……。
週末には、実家にも挨拶に来てくれた。
ママはさっそく、
「それで、お式はいつの予定?」
「僕は、今年の夏って考えてます」
「夏!?」
あたしもママも叫んだ。
「無理だよ、式場だってもう取れないし」
「何とかなるんじゃない? どこか空いてるよ」
冗談でしょ、結婚式は女子にとって、最初で最後のプリンセスの日なのよ?
場所どころか、ドレスもヘアスタイルもブーケも何もかも、こだわるに決まってる。今から4か月後に挙式なんて、絶対むり!
そう言いたかったけど、ぐっとのみこんだ。
男の人って、結婚式については重要視しないんだから。
パパはちらっと眉毛を上げただけだった。
家族だけが分かるサイン。
『大丈夫かね、この結婚?』とでも言いたいんだ……。
だいじょうぶよ、パパ。爽太さん、イイ人だもん。
ちょっと、結婚についてわかっていない感じもあるけど。
とりあえず、結納をすることは決まった。
そして、あたしが初めて知ったことがある。
今回みたいなケースの結納金は、うちが『爽太さんに対して』おさめるのだ。
このあいだ聞いた、高瀬さんの言葉を思い出す。
『結婚後は、名前が変わるほうにいろいろな手続きが発生するものですから……』
爽太さんとあたしの場合、なにもかもが一般的な結婚とは逆の手順を踏む。名前が変わるのは爽太さんだし、本籍が変わるのも爽太さん。
爽太さんは分っていたみたいで、混乱するあたしを見て笑う。
するとママは心配そうな顔になって、
「もうね、こんな娘で申し訳ないくらいだわ。
そちらのご両親はもう亡くなられているって聞いて、結納について迷っていたんですけどね。
じゃあ準備を始めるわ。
まず場所を押さえなくちゃね。
キャッスルホテルかしらね……アムリタホテルは人気すぎて、今からじゃ、日柄がいい日は予約済みでしょうね」
ママはすっかり張り切っている。
それを横目で見ながら、あたしはまたモヤモヤした。
だけどじゃあ、きらきらダイヤのエンゲージリングはいつ来るの?
っていうか、エンゲージリングもあたしが買うの!?
さすがにそれはないんだろうけど……。
べつにダイヤの指輪がどうしても欲しいって、わけじゃない。
愛情の証拠が欲しいの。
女にとっての婚約指輪は、夫となるべき人が愛情を固めて作ってくれる『輝きのカタマリ』なのだ。
いわば未来に対する、彼からの決意表明。
爽太さん、いったいいつ、決意を見せてくれるのかな……。
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