131人が本棚に入れています
本棚に追加
第25話「あたしの人生、おわったわ」
(Jörg PrieserによるPixabayからの画像 )
スミレの叔父さんは、ほんとうに5分後に来た。40歳くらいの男性ドクターは、あたしの状態を見るなり、
「相手の男、訴える?」
と聞いた。
「簡単な事情はスミレから聞いたけど、これ、DVの暴行・傷害事件として訴えることができるレベルだよ」
「でも、あたし結婚していませんけど」
「同棲していればじゅうぶんDVとして成立するよ。医師の診断書やカルテへの記載があれば、裁判や保護命令を申し立ても可能だ。
裁判所を通じて『接近禁止命令』を出してもらうこともね」
「そうなんですか……」
あたしは考え込んだ。
でも今はなんにも思いつかない。
スミレのおじさんは、
「まあ、今夜スグに、っていうわけじゃない。でも状況証拠は残すべきだな。
スミレに頼んで全身の写真を撮っておくようにね。
診断書は明日、書きましょう」
「……ありがとうございます」
「泣き寝入りっていうのが一番よくないんだ、体にもメンタルにも。
いろいろな選択肢もあるって覚えておいて」
そう言って、帰っていった。
その晩はスミレが泊めてくれた。というか、
「あんたね、しばらく家に帰らないほうがいいわよ。青井さん、あそこに引っ越してきたでしょう?」
「……うん」
「着替えとか取りに戻りたいだろうけど、生きていることが先決だから。あの部屋に残してきた大事な物ってなにがある?」
「……おいてきたのは、通帳くらいかな。財布とスマホは持ってきた」
「わかった。今日は眠って、むつみ」
眠れなかった。
人生で最大のショックが襲ってきたんだから。
信じていた彼に、これからの人生を一緒に歩こうって思っていた彼に、罵倒されて髪を切られて、蹴られたんだから。
窓から、白く明けていく空を眺めて思った。
あたしの人生、おわったわ、って。
最初のコメントを投稿しよう!