![ca86ead4-b593-4700-afd5-cc5237679db7](https://img.estar.jp/public/user_upload/ca86ead4-b593-4700-afd5-cc5237679db7.jpg?width=800&format=jpg)
(UnsplashのDIEGO SANCHEZが撮影)
「はあああ、むつみって料理うまいよなー。こんなカノジョがいて、オレ、ほんとにしあわせだあ」
夕食を終えた爽太さんは、1LDKの部屋でコロン、と転がった。
170センチの身体にはちょっと狭い部屋なんだけど、ノンビリとくつろいでくれているのが分かって、うれしい。
あたしはちょっと笑って、
「おおげさ、爽太さんったら」
「だって、ホントにうまかったんだよ。
あ、皿は置いておけよ。腹が落ち着いたら、オレが洗うからさー」
「ありがと」
とりあえず、テーブルの皿を重ねておく。
うふふ。ほんとに大げさ。だって特別なものを作っているわけじゃないもの。
今日のメニューは野菜炒めと豚汁、冷ややっこ。
手の込んだ料理じゃないし、あたしは料理上手なわけじゃない。
だけど爽太さんはいつも美味しいって食べてくれるし、食後の皿洗いも嫌がらず、自分から言いだしてくれる。
今はのんびりとスマホを見ているけど、もう少ししたら本当に全部の皿とフライパン、鍋まで洗ってくれる。
……こういうまめさは、結婚してからも続くかしら?
確認のためにも結婚する前に一緒に暮らしておきたいけど、難しいかなあ。うちの親、そういうところは厳しいからな。親戚の眼もあるもんね……。
ぼんやり考えていると、爽太さんが笑っていった。
「そうだ、覚えてる? 付き合い始めてそろそろ半年になるんだよ」
「あ、ほんとだ」
「そうだよー。そういうことって、女の子は忘れないと思っていたけど、むつみは忘れるね。そういう所がすきだな」
「付き合って半年たっても『好きだな』と平気で言える爽太さんがすごいと思うけどね」
「そうかな、男は大事な女の子にはちゃんと言うよ。
さて、皿を洗っちゃおうかなー。むつみを『食う』前にね」
「もー! そういういい方オジサンっぽいよ」
「むつみより2歳も年上だから、オジサンだよ」
立ち上がった爽太さんはニヤリと笑って、皿を洗いはじめる。
水音を立てながら、
「さきにシャワーに入って、むつみ」
「うーん。今日はあたし、そんなに汚れてないけどね……」
シャワーに入るのが面倒な気分でそういうと、爽太さんの両肩がぴくっと動いた。
……やばい。
そう思ったけど、爽太さんの口調はまだのんびりしていた。
「入っとけよー。オレは後で入るから—」
「んー、でもー」
今度こそ、ぴたり、と水音がとまった。爽太さんは向こうを向いたままで、
「
入れ、むつみ」
「……うん」
たちあがってユニットバスへ行く。
服を脱いでシャワーの湯を出しはじめた時、キッチンの水音が再開した。
あたしはため息をつく。
爽太さんには、妙なスイッチがある。
いったん自分がきめたルーティンからあたしがはずれるのを、すごく嫌がるのだ。
たとえば、夕食の買いだしと料理はあたしの役目。
皿洗いとゴミの片づけは爽太さん。
そしてベッドに入る前には、必ずあたしがシャワーを浴びて歯を磨くこと。
爽太さんは『サキ』に歯を磨き、『アト』にシャワーを使う。
いっこいっこは些細なことなんだけど、ぜったいに変更しちゃいけない約束事だ。
まあ、これくらいのこだわりは男にはあるものよね……。完全無欠な人なんていないんだし。
ただし問題は、このアトにもある……。
あたしが食後に入浴したくないのも、ぐずぐずするのにも意味がある。
爽太さんは、アレがうまくないの……
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