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第6話「恋愛には年齢も国籍も、性別も関係ない」
(UnsplashのMathilde Langevinが撮影)
あたしは心底おどろいた。
スミレのカレは取引先の広報で働いている2歳年下のイケメンだ。仕事がら派手な性格ではあるけどが、まさか、既婚者……?
「だって、相手はまだ24歳でしょ?」
「そうだけど、その年齢でも結婚している人もいるじゃない。
ワンチャン、バツイチかもって思うんだけど。
気のせいかもしれないけど……」
ランチのごみをトートバッグに放り込みながら、スミレは言った。
「ううん、やっぱり気のせいじゃないと思う」
「……まさか」
「ねえ、明日の『賢者タイム』、一緒にいてよ、むつみ。
ひとりじゃあ、衝撃に耐えきれないかもしれない」
スミレが真剣な顔でそう言った。
あたしも考えこむ。
もし『賢者』のたたき出すダメンズ係数がすごく高かった場合、スミレだってショックかもしれない。
友人として支えるべきだろう。
だけど。
まさか。
スミレが。
あたしは腰が抜けたようになった。
3か国語ペラペラ、仕事ができて頭の切れるスミレが、年下の既婚者にだまされてる……?
翌日、12:40。
約束どおり5分前にスミレは総務室にやって来た。
部屋にはあたしと『賢者』高瀬さんしかいない。仕事をしない上司、経理課の若林課長は、ランチにハワイアンを聞きながらハンバーガーを出すカフェへ行った。
ほんと、お気楽な人よね……。
時間が来る。
スミレの前の人は、企画課の女子社員だった。
えっ、あのひとたしか40代のはずだけど。
子ども二人がいるママだけど、まさか恋愛相談?
だけど昨日のスミレの話を聞いて以来、どんなことがあっても不思議はないって思うようになった。
恋愛には年齢も国籍も、性別も関係ない。
あらゆるひとが恋愛について悩んでいるのだ。
だからこそ、『総務の賢者』が必要とされている……。
そこへ、ひょこっと高瀬さんが顔を見せた。
「西崎スミレさん、順番ですよ」
高瀬さんはいたってフラットな声でスミレを呼んだ。スミレはさすがに少し緊張したような声で、
「あの、門脇さんも一緒にいてほしいんですけれど、いいですか?」
「いいですよ、ご本人たちがよければ」
サラリとそう言うと、キャビネットの塔に入っていく。
あたしたちもその後ろについて行った。
高瀬さんに向かいあった来客用ソファにスミレが座り、その隣にあたしが座る。
そして『賢者』の前には、この世のありとあらゆる邪悪を叩き出す電卓が、魔法の水晶玉のように鎮座していた。
「始めましょう」
ちゃきっ、と『賢者』は右手を電卓の上に置いた。
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