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第1話「ダメンズ正答率 120%」
(UnsplashのCaleb Georgeが撮影)
女の26歳は恋愛市場での価値が急落する年齢だ。
それを元カレの一言から思い知らされたのが、あたし、門脇むつみの26歳バースデーだった。8カ月まえのこと。
去年の秋、誕生日にデートの予定が入った瞬間にこう思った。
『ヤダ、バースデープロポーズされちゃうかも!?』
カレシと付き合って2年目の26歳女子なら、だいたいそう思うでしょ?
ところがあのバカ元カレは、ハロウィーン気分満載のカフェでこう言ったのだ。
『え、今日が誕生日? 忘れてたわ。
はー、お前もとうとう26かよ。若い女を抱いてるって感じ、しないわーもう』
カチンと来た
……×ね、と思ったわ。あいつは4歳も年上だったくせに。
だけど、すぐに『死ね、バカ!』と言い返すことはできなかった。
だって、あたし自身が同じことを感じていたからだ。
26歳。
女にとっては若さだけで押し切ることが出来なくなる年齢だ。少なくとも失敗したら、すぐにやり直しがきく年齢ではない。
だからこそ、次の男は絶対に『まともな、結婚対象にできる男』にしようと決めた。
元カレとは、その場で別れた。
1か月後、社内の先輩、宮野爽太さんと付き合いはじめた。
宮野さん(ふだんは『爽太さん』って呼んでるから、以後はこっちを使う)は、
営業2課にいる28歳。
入社6年目で、目立つような業績は上げていないけれども、社内の評価は悪くない。明るくて社交的だし、清潔感もある。
身長170センチ、体重70キロ。顔はそこそこイケメン。
みだしなみにも、それなりに気を使ってて、デートに着てくる服は白シャツにデニム。無難だけどはずさないファッションだ。
可もなく不可もない。だけど程よいイケメンだし、女性ウケはいい。
総合的に見ると、実に実に平均的、標準的な人だ。
だけど。
一度でも真剣に婚活をしたヒトなら分かると思うけど、婚活市場で『標準的』な男を見つけるのは、南シナ海でサーフィンしているカバを見つけるよりも、難しい。
つまり爽太さんは、これ以上ないほどの優良物件っていう事。
恵まれた勤務先、ちょっと抜けている感じがするけど人当たりのいいカレシ、実家の両親は心配性だけれどやさしい。
26歳の女としては、言うことない。
あとは、爽太さんからのプロポーズを待つだけ。
待つだけなんだけど……。
そうね、ここで『なんかちょっとチガウ気がする』なんて言ったら、世の中の女性からバナナの皮を投げられるよね。
分かってる。
分かっているけど。
……なんかちょっと、チガウ気がするのよね。
ま、気のせいか……
★★★
その日、あたしはパソコンを開いて前月の収支決算報告書をチェックしていた。
ぴこぴこっっ♪て、社内メールが飛んできた音がする。
爽太さんから明日のデートの確認かな? なんて思ったら、海外事業部で働いている同期の西崎スミレからだった。
いつものようにメッセージは簡潔。スミレは無駄なことをしない頭のいい子なのよ。
『むつみ、なんとかして『総務の賢者』の予約、とれないかな!?」
はあ、とため息をついて総務室の奥を見る。
そこには小さな身体をまっすぐにたて、すさまじい速さでキーボードをたたきつづけている女性がいる。
高瀬 凪さん、31歳。
高卒で三ツ星機械に入社し、勤続13年というベテラン、お局さまだ。
仕事はできる。めちゃくちゃできる。
だけど、業務よりなによりも彼女を有名にしているのは、電卓でたたき出す男の『ダメンズ係数』だ。
女子社員の恋愛相談を受けつつ、同時にカレシのダメンズ度を数値で割り出し、計算していく。最終的に算出された『ダメンズ係数』は数字が大きいほどにダメな男、という意味になる。
その正答率、およそ120%。
あまりにも正確無比な計測度から、高瀬さんはこう呼ばれている。
『総務の賢者』と――。
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