執務室

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執務室

 榎田は頭を悩ましていた。わたしは全国民の生命を危機に晒そうとしている。そして、その責任を天皇陛下に託そうともしていた。  世界の首脳陣には、ジパングが自己犠牲を払うことを約束してしまった。  NASAは着々と「ファルコン」に向けての迎撃の準備をしていた。  榎田は執務室で閣僚と最後の会議をした。  天皇陛下にジパングの自己犠牲について、国民を説得させる準備は整っていた。 「わたしは、正しい道を国民に示せたのかな?」  榎田は閣僚たちに訊ねた。閣僚の一人は、榎田の肩に優しく手を置いた。 「総理、総理は一つも間違ってはおりません。わたしが総理の立場でも、同じ決断をしたでしょう」 「ありがとう。君たちも天皇陛下の会見を家族で観て、最後の時間を過ごしてくれたまえ」 「いいえ。わたしたちは総理と心中する覚悟ができています。わたしにとって、総理の傍らで国民のために政治の指揮をとることこそが、わたしたちの人生のすべてでした。だから、総理、わたしたちを傍に置いてください」  榎田は渋面を作り、涙を堪えていた。歯を食いしばっていないと、号泣してしまいそうだった。 「わたしはね、ジパングは消滅しても、魂は永遠だと思っているよ」 「総理!」  閣僚たちが榎田の前に駆け寄り、抱き合った。そして、憚らず、大泣きをした。
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