1. 裏の顔

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1. 裏の顔

今夜の空は闇が主役だった。雨は、そんな闇を引き立てる脇役だった。そこは、とても静かだった。 私は、エマを追うように、通りを歩いていた。 ー ー ー 私とエマはいつものように学校へ行った。いつものようにテストのことや、今週末にどこに出かけるかを話して、いつものように笑いあった。 そして…いつもと違って、私たちは一緒に帰らなかった。エマが用事があると言ったからだ。 私は放課後に廊下を歩いていた。教室に、忘れ物をしたからだった。 そして、歩いている途中で聞いてしまったんだ―――エマがメリディスの大臣と話している声を。 今週末は家族でピクニックに行く予定じゃなかったの?――暗殺に行くとは言ってなかったよ。そんな話、したことなかったよ。 ー ー ー 音が聞こえた。エマの足音だった。私は密かにエマの後をつけた。 やってはいけないとはわかっていても、もうそんなことはどうでもよくなっていた。何が正しくて、何が間違っているのか、私にはわからない。もう、わからない。 突然、エマが歩みを止めた。 私は、近くの路地裏に隠れて、エマのいる先を見つめた。 「こんばんは、マスター」 「こんばんは 」 男の声は、かすれていた。 この人が…この人が…。 ―――過去のことは無駄だから考えるのをやめた。この国ではすべてが嘘だ。何を忘れていたんだろう、私は。 「実際に目にしたものだけを信じなさい。」 これは、私が幼稚園児の時に父から聞いた言葉だった...だから、10年ぐらい前だろうか。時間が経つのは早い。私は、この言葉の意味がようやく理解できた。普段見ているものを信じてはいけないということ。私たちに見られていることに気づいていないときのその人の顔を見なければならない。つまり、その人の裏の顔―――それが本当の顔なのだ。 いけないとわかっていた。 でも私は、自分をコントロールすることができなかった。 だから、思わず叫んでしまったんだ。 「エマ!」と。
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