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2. 「また会えたな」
「アンナ!?」
エマが私の名前を呼んだ。
男はまだそこに立っていて、その顔には笑みを浮かべていた。
「どうして…どうして…」
そう言っていたのが私だったのか、エマだったのか、わからない。私たちはあまりにも混乱していた。
「なぜ…私を…殺すつもりだったんだ!?なんで…なの……?」
エマが敵国のスパイで、私を殺害しようとしていて。
まさか―――。
先程の私の問に、エマが答えることはなかった。
私達の間には、沈黙が広がった。すると、男は大笑いした。
「お前は不器用だなぁ!何も気づかないなんて!」
「何…!?」
エマが泣いたのは、彼が掴んでいるナイフを見たからだった。
背中にぞわぞわと寒気がたつ。紅潮していた頬が、急激に冷えていくのがわかった。
「お前を殺してやる!」
「考えている暇などなかった」とはまさにこのことだと思う。
男はギラギラした目で、私たちの心臓を狙って突進してきた。
「やめろ!」
男からエマをかばうようにして、私はエマの上に倒れ込んだ。
ガギゴォン!と、鈍い音が響く。
「痛っ…」
「アンナ!」
エマの体が小刻みに震えていた。体温が温かい。
でも、次はエマが刺されてしまう―――。男が油断している間に――
私は突然立ち上がり、彼の足首を蹴った。彼は驚いて数歩後退し、そして尻もちを付く形で倒れた。少しでも時間を稼ぐために、私は男の胸を、靴で思い切り蹴った。
うぐっ、と男が呻いているうちに、私はエマを近くの路地へ押しやった。これから数分の間に起こることを見せないようにするためだった。
「そこにいて。」
エマは怖いと同時に混乱していたためか、言葉こそ出てこなかったものの、頷いた。
すぐに私は路地から出てきた。男は、先程私に蹴られた胸をさすりながらも、もう立ち上がっていた。
…そう簡単にはいかないよね。
私は男の方を見て構えた。
私は、この日が来るのををずっと待っていたんだ。簡単には渡さない。
「愚かだな、武器がなければ、私を殺すことはできない」
ナイフをひらひらと見せつけながら、男が挑発してきた。
わかっている。私はあんたを殺すつもりはない。
―――5年前、私の父が死んだ。
当時の私は激しい感情を抱いた。怒りがこみ上げてきた。今すぐにでもどうにかなりそうだった。
――でも、それは父が私に望んでいたことではないとわかっていたから、煮えたぎるような赤い感情を、私はなんとかコントロールして抑え込んでいた。
「また、会えたな。」
この言葉をこいつにむかって口にする日が来るとは、思っていなかった。
今日が、爆発するべきときだ。
私は男を殺すつもりはないが、置き去りにするつもりもない。私はリラックスして自分をコントロールするために呼吸を整えた。
全てはこの日のために。
自分の動きと音に集中するため、目を閉じた。彼が私に向かって走ってくる音がする。
今だ!
私はナイフを避けるために宙を舞った。そして彼の首に手刀を突き刺し、体勢を正して、華麗に着地した。
彼は一言も発することなく、倒れた。
あっけなかった。
パトカーのもつ独特なサイレンが聞こえてくる。
エマが警察に電話したのかもしれない。
私は彼女を捕まえるために路地に行った。
「アンナ…ごめん…アンナ、私は…」
「逃げよう」
私はエマの腕を掴んだ。
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