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莉子が起こした事件は、世間を騒がせた。
嫁いびりを機に姑を殺害し、それに気づいた夫に多額の保険金を掛けた上で事故に見せかけて殺害した――という事件のあらましが衝撃だったのだろう。
おまけに、夫である拓真の事件では罪のない人が巻き込まれ、怪我を負った。拓真が左車線を走っていたのが幸いして、外れたタイヤで怪我をする人はいなかったそうだ。だが報道によれば、道路沿いの住宅の外壁を大きく傷つけるという被害はあったようだった。
毎日のようにニュースで取り上げられているのを見ると、奈央の両親の目にも留まっているだろう。奈央はそれが憂鬱だった。
年末を迎えても、捜査の進展が時折テレビで報道されていた。
奈央は重い足取りで実家へ赴く。一緒に行く予定だった茜は用事があるようで、年明けに合流することとなった。
「おかえりなさい」
笑顔の両親に迎えられ、事件のことを知らないのではないかと奈央は安堵する。
奈央が莉子のことを両親に知られたくないのは、彼らが莉子のことを我が子同然に可愛がっていたからだ。
「ただいま」
両親と他愛のない世間話をして過ごす。彼らの口から、莉子の名前が出てくることはなかった。
学生時代、莉子は我が家のように奈央の実家に入り浸っていた。
当時の奈央は親友と夜まで一緒に過ごせることが楽しくて仕方がなかったが、莉子がそうしていたのは両親の喧嘩から逃げる為だったため、喜ぶことはどこか憚られた。
彼女の両親が離婚した後、彼女は母親に引き取られた。しかし彼女の母親は仕事で慌ただしくしていて、娘を可愛がる余裕を持てないようだった。
それで奈央の両親が、彼女のことを娘同然に可愛がり、愛情を注ぐようになったのだ。
とはいえ奈央と違って、莉子は実子ではなく他所の子だ。
両親は他所の子にまで自宅の教育方針を押し付けて、トラブルになるのを避けたかったのだろう。莉子が我が儘を言うと、両親はほとんど全て叶えようとした。
一方で奈央は、欲しいものを全て手に入れることはできなかった。
買ってもらうには本当に欲しいか時間をかけて考えたり、両親を説得したりする必要があった。時には、テストでいい成績を収めたご褒美にしか買ってもらえないこともあった。
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