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――莉子ちゃんは、両親が離婚して大変な思いをしている子だから、できる限り優しくしてあげてね。
一度、莉子の我が儘が度を過ぎているのを窘めた時、奈央は両親にそう言われた。
奈央の実家は、貧乏ではなかったが裕福でもなかった。だから自分が色々我慢している中で、我が儘が全て通る莉子を見て、寂しさを感じなかった訳ではなかった。
だが、両親のその言葉で、莉子も誰かに甘えたいのだと思い直した。妹ができたらこういう風かもしれないとも自身に言い聞かせた。
当時も今も、両親の行動に異論はない。むしろ、他所の子にもたくさんの愛情を注いだ両親を凄いと今なら思える。
だからこそ、それだけ可愛がっていた莉子が起こした凄惨な事件のことを知られたくなかった。拓真と別れた時に、咄嗟に莉子のことを伏せたのも同じ心理だった。
「そういえば、莉子ちゃんが逮捕されたんだってね。奈央もニュース、見た?」
奈央がお風呂から出たところで、台所を片付けていた母親が話しかけてきた。咄嗟にテレビを見るが、テレビには何も映っていない。前から知っていたのだろうかと考え、背中を冷たい汗が伝った。
「……うん、見たよ」
「旦那さんとお姑さんを殺しちゃったんだってね」
母親の反応を見るのが怖くて、奈央は顔を伏せた。「そうらしいね」と相槌を打つと、彼女はため息をついた後「どうして言ってくれなかったの」と言った。
ニュースのことかと思い、奈央はハッと顔を上げる。思いがけない質問に驚いて、言葉が何も浮かばない。返答に詰まっていると母親が言葉を続けた。
「莉子ちゃん、奈央の婚約者だった拓真さんと結婚したんでしょ?結婚したの、奈央と結婚してすぐだって言うじゃない…」
「え……と」
莉子が拓真と浮気したことを両親が知ったら、悲しむと思った――と素直に言うのは憚られた。
隠したことを、両親のせいにしているように聞こえると思ったからだ。
「親友だと思ってたから、私の中で気持ちが上手く整理できてなくって」
咄嗟に誤魔化す。だが嘘という訳ではない。
回帰してからずっと、それは心のどこかで思っていたことだ。
過去で裏切った莉子に、拓真を押し付けるという構図はずっと頭にあったが、親友からの裏切りは簡単に納得できることではなかった。
「そっか……そうよね」
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