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母親が食器を食洗器に入れ終え、手を洗う音がリビングに響く。
奈央はソファに腰を下ろした。暫くして、手を拭いた母親が奈央の隣に座る。
「私ね、莉子ちゃんの我が儘は色々と聞いてあげていたのに、奈央にはルールを強要してしまったことを後悔してたの。奈央、ごめんね」
謝られて奈央は戸惑った。母親が後悔していると思っていなかったからだ。
「気にしてなかった――って言ったらウソになるけど、でも、感謝してるとこもあるんだよ?今だって、物を買う前に本当に欲しいか考えることができてるから」
奈央がそう答えても、母親の表情は曇ったままだ。
言い方が悪かっただろうかと奈央は考える。
「昔から、奈央は歳より大人びてたでしょ。思ってることもあまり表に出さないし…。私たちが、莉子ちゃんの我が儘を苦労してるって理由だけで許してしまったからかなって思って、それが申し訳なくて」
大人びたのも、思ったことを表に出せなかったのも、両親のせいではなかった。
嫌がらせを受けて、自然と心に鍵をかけることが癖になっていた。だから大人びて見えたのだろう。
「お母さんたちのせいじゃないよ」奈央は首を振って答えた。
「お父さんはね、何度も莉子ちゃんのお母さんに言ってたのよ。莉子ちゃんに必要なのは自分たちではなくて実の母親の愛なんだって。もう少しかまってあげてって。……結局、聞き入れてもらえなかったけれど」
意外だった。奈央は驚く。
両親が、莉子の母親を訪ねて訴えていたことは初耳だったのだ。
「シングルになって余裕が持てなかったんだろうけどね…。でも、私たちがもう少し莉子ちゃんと距離を置いていたら、色々と違ったのかなってニュース見てたら思っちゃって」
母はそう言って悲し気に笑う。奈央は「どうだろうね」と答えつつ、それはないだろうと思った。
莉子はずっと、親友のフリをしながら奈央のことをいじめていた張本人だった。
両親が莉子と距離を置いていたら、いじめはもっと過酷なものになっていたかもしれない。根拠はないがそう思った。
「莉子だってもう25だよ?物事の良い悪いの区別くらい学校でも学べるもの。道を踏み外したのは莉子自身だよ」
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