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これは、遠回しに将来を任せてくれたのだろうか――そう思いながら、茜は奈央をチラッと見る。
ちょうど彼女もこちらを見ていて目が合ったが、彼女は何も言わずにお茶を飲み干すのだった。
食事を終えて少し経った頃、父親と並んでテレビを見る奈央の目を盗むように、彼女の母親に声をかけられた。
「ちょっといいかしら」
奈央に聞かれたくない話なのだろうと直感した茜は、無言で頷く。リビングをそっと離れた彼女の母について行くと、ウッドデッキに出た。
真冬の冷たい風が頬を撫でるが、暖房で火照った体には心地よく感じる。
「寒いところに呼び出してごめんなさいね」
よほど聞かれたくない話なのか、奈央の母はリビングを離れた今も声を潜めたままだ。茜は「いえ、大丈夫です」と小声で返事をした。
「茜さんは、ご存じ?…その、奈央の元婚約者のこと」
「はい、聞いてます」
奈央の元婚約者の浮気のことは聞いていたし、結婚式で顔も合わせている。茜の返事に、彼女は安堵したように胸を撫で下ろした。
「最初に言っておくけれど、決してあなたのことを疑っているとかじゃなくて、娘のことを案じているだけだとわかってほしいの」彼女が前置きする。「ただ、プロポーズ前から浮気されていて、結婚資金を浮気相手に貢ぐために使われて…奈央が気が付かなければきっとそのまま結婚して浮気を続けてたような人でしょう、元婚約者は」
茜は結婚式でのことを思い返す。
過去のことを知っているということを抜きにしても、拓真の態度は横柄で浮気のことを反省しているとは思えなかった。
奈央が証拠を突きつけていなければ、浮気のことを問い詰められてもしらばっくれていただろう。
「それだけの裏切りを、結婚目前でされて奈央は傷ついてるの。同じ目にまた遭うかもしれないと思うと不安で……」
奈央の母が何を言わんとしているか気づき、茜は彼女の方に体を向けた。
「不安に思うことは重々承知しています。初対面なので俺――僕に信頼がないことも。だから、行動で示します。奈央さんのことを大切に想っているのだと、ご両親に信じてもらえるように」
茜の言葉に驚いたのか、彼女は目を瞬かせる。それからほほ笑み、「誠実な人なのね」とぽつりと呟いた。
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