Chapter*25

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「当たり前のことです。だって、僕が奈央さんやご両親の立場なら、そうして欲しいと思うから…」 そう口にしてから、茜はふと気づく。 今のこの状況は、随分とと変わった。では奈央と同窓会で再会することも、こうして彼女の実家に来ることもなかったのだから。 今までは、茜が色々行動を変えたからだと思っていた。だがよく考えれば、茜が関わっただけでここまで変わるはずはない。 例えば同窓会での再会。本来、では奈央が入れ違いに帰宅してしまったために顔を合わせることはなかった。なら何故今回は会えたのか――それは奈央の行動が変わったからだろう。 茜のカフェに、彼女が現れたのもそうだ。茜が目にした多くの変化は、奈央の行動が変わらなければ変わらなかったことばかりだ。 今までずっと、奈央がを知っているのか知らないのか、わからなかった。だがずっと答えはそこにあったのだ。 「きっと奈央さんは、結婚に対して後ろ向きだと思います。僕が彼女の立場なら、また誰かを信頼して、家族になることに怯えると思うので…」茜は奈央の母に語り掛ける。「僕は、彼女が嫌だと思うなら結婚できなくていいんです。ただ、彼女の傍にいて彼女を幸せにできれば、形は関係ありませんから」 そこまで口にしたところで、くしゃみが出る。奈央の母が「部屋に戻りましょっか。ごめんなさいね、寒いのに」と申し訳なさそうに頭を下げた。 「全然平気です」茜は胸の前で手を振る。 「でも、奈央の傍にいてくれる人が、茜さんでよかった。そこまで奈央のことを考えてくれる人だもの、きっと幸せになれるわね」 ◇◆◇◆ 1月の半ばに差し掛かる頃、莉子の裁判が始まった。 奈央は、身勝手に振る舞った莉子の行動の結末を見届けるべく、裁判所へ足を運んだ。世間を賑わせた莉子の裁判には、奈央の他にも多くの人が訪れた。 拓真の葬儀の場で刑事が口にした内容以上に、検察が提示した殺人の証拠は多い。状況証拠もあれば物的証拠もあり、無罪を主張するのは不可能だとひと目でわかった。 そもそも事故として処理された拓真の母の件が、事件として再捜査されたきっかけは拓真の事故だったという。拓真の事故後、彼が生命保険に加入して間もないことが判明したのだ。 保険の名義は拓真となっていたが、事故直前に申し込まれた生命保険に、保険会社は疑問を持ったという。連絡を受けた警察の調べで、それが莉子のスマホから拓真の名義を使って申し込まれた保険であったことが確認された。
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