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◇◆◇◆
莉子が無期懲役を言い渡されて2週間。
結局彼女は罪を受け入れたのか、控訴することはなくそのまま刑罰が確定した。
2月は半ばを迎え、奈央は過去に想いを馳せる。
奈央が10年後の過去で命を落としたのはちょうどこのくらいの時期だった。
――もういいんです。ここらでけじめにしたいので。
莉子の判決を受けて、奈央は〈Lee〉に法的措置を講じるのをやめた。
彼女が殺人を犯して服役する以上、開示請求も誹謗中傷の裁判もちっぽけに思えた。
彼女の身勝手さが招いた事件が彼女への天罰だと捉え、前に進もうと奈央の中で踏ん切りをつけることができたのだった。
だから最後の最後に、ここへ赴いたのだ。
奈央は、面会室に入って来る莉子を見つめる。グレーのスウェットに、ひとつにまとめたぼさぼさの髪と土気色の顔。
華やかだった彼女はどこにもいない。
「久しぶり」
奈央は話しかける。莉子は返事をしない。ただ睨むように、奈央を見つめるばかりだ。
「今更なんなの」
暫くの沈黙の後、莉子がぼそっと言った。奈央は「何が?」と聞く。
莉子がガタッと立ち上がった。
「私の幸せぶち壊して楽しい!? アンタ言ったじゃない、一緒に幸せになれればよかったって!それなのに…っ!それなのに、ひとりだけ幸せ手に入れちゃって!」
莉子を連れて来た看守が、彼女を叱責する。こぶしを握り、不満げに彼女は椅子に座り直した。
「聞いたわよ、奈央の彼氏が会社の次期社長になる意思を固めたって。時間が経てば社長夫人だものね、ずるい」
何も変わらないか。奈央はため息をつく。
だが気に留めずに莉子は言葉を続けた。
「クラスで浮いてた目つきの悪い根暗が社長になっちゃうんだもんね。愛人の子供だったくせに」
「まだわからないの?」
茜の悪口を聞きたくない――そう思いながら、奈央は鋭い言葉で制する。
驚いた様子で莉子が顔を上げた。
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