504人が本棚に入れています
本棚に追加
「幸せをぶち壊した?少し前まで、私や茜くんをSNSで中傷していたのに、自分だけが被害者みたいな言い方をするのね」
奈央が冷たく言うと、まるで自分が被害者だと言わんばかりに莉子は目に涙を溜める。
本当に、被害者ヅラするのが上手なんだから――そう思いながら奈央は言葉を続けた。
「私から拓真さんを奪って結婚して幸せだったんでしょ?それを望んでたはずでしょ?どうして、そうまでして結婚した人を殺めたの?」
裁判で莉子は、拓真を殺めた理由について言わなかった。生命保険を掛けて殺害したことから金目的だろうと検察は推測していたようだが、莉子は肯定も否定もしなかった。
奈央の問いにも、案の定莉子は答えない。
「アンタと拓真さん、私と茜くんでそれぞれが幸せ。そうやって一緒に幸せになれればよかったのに」奈央は呟く。
「そんなの…っ、奈央が幸せなら意味ない!」
莉子の返答に、奈央の口から思わず「は?」と声が漏れる。同時に、奈央の言葉を用いて叱責してきた彼女の先ほどとは異なる主張に呆れた。
「奈央は生まれた時からずっと環境に恵まれてたからそんなこと言えるんでしょ!私は…私はずっと不幸だった!私が奈央より幸せだったことなんて一度もないの!」
何を言っているんだと奈央は呆れた。
奈央の両親に山ほど我が儘を言い、奈央へのいじめの裏で糸を引いておきながら、幸せではなかった?
彼女の記憶は都合よく上書きされているのだろうか、と考えて奈央はため息をつく。
「アンタが我が儘を言ったのと同じ分、私も我が儘を聞いてもらってると思った?私の家は、アンタが思ってるほど裕福じゃない。お父さんが苦労して働いてるのを知ってたから、努力の対価としてしか欲しいものを買ってもらうなんてしなかった。……教えてよ、アンタの言う幸せって、何?」
親からの愛だろうか。恋人がいること?或いはお金のことを指しているのだろうか。
彼女の言う“幸せ”はわかるようでわからない。ただ、奈央が莉子の見下せる存在であることが、彼女にとっての幸せのように思えた。
「私は、莉子と拓真さんに裏切られたのはショックだったけど、2人が結婚して幸せならそれでいいやとも思ったのよ」
最初のコメントを投稿しよう!