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もちろんすぐに許せることではないが――いつかはそう思おうと思っていた。今は復讐の結果2人が夫婦でいてくれることを望んでいるだけだが、それでも何年も経てば彼らなりの幸せを願えたはずだ。
「でも莉子は、私に恋人ができたと知ってから、彼の素性を探ってSNSで誹謗中傷を繰り返して…私たちの幸せを妨害しようとしてたでしょ」
あなたがいる限り、私の未来に幸せはない。10年後にはまた死んでいたかもしれない。奈央は心の中で呟く。
結局は莉子の身勝手さが足を引っ張って、彼女自身の幸せまで壊してしまった訳だが――
「アンタがそんなことをしなければ、私は2人の裏切りもいつか水に流そうと思ってたのに。まぁ、どんな理由であれ身勝手に人の命を奪って、アンタ自身が幸せを壊したの。どうしてそうなったのか、よく考えたら?」
莉子が現状に満足していれば、奈央を見下す余り不幸に陥れようとしなければ――あるいは、違う未来もあったのかもしれない。
奈央は立ち上がった。そして「ばいばい」と手を振って面会室を後にする。
後ろで莉子が喚いていたが、もう気に留めなかった。
復讐は終わった。結末は自業自得だった。奈央が何もせずとも彼女は勝手に転がり落ちた。
裁判の結末を見届けて終わることもできた。だが最後に刑務所に足を運んだのは、かつて親友だった彼女への情けだったのだろうか。あるいは復讐の本当の結末は、落ちぶれた彼女の姿を見ることにあったとでもいうのだろうか。
心には虚しさのような寂しさだけが残った。
復讐のことばかり考えていたからだろうか。それが終わりを迎えたら、何をすればいいのだろう――。
ひらり。どこからか桜の花びらが飛んできて、奈央の足元に落ちる。
まだ桜が咲く季節ではないのにと不思議に思いながら、奈央はそれを拾い上げた。
拓真と莉子がいなくなったのだ。命の心配はない。
時間は十分あるのだ。過去になかった自由をまずは目いっぱい謳歌しよう。
奈央はそう心に決め、前へ一歩足を踏み出すのだった。
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