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「奈央が死んでいるのを最初に見つけてくれた茜さんという方、葬儀にも来てくれていたのよ」
葬儀からの帰り、知央が目を細めながら言った。
参列者のリストに目を通すと〈星野茜〉という名前を見つけた。茜という名前は他にないため、それが彼の名前なのだろう。
「会社の同僚だったそうで、忘れ物を届けに奈央を追いかけてくれたんだって。優しい人よね」
「……そうだな」
奈央の忘れ物に気づき、わざわざ届けてくれたのだ。最近そういった親切な人は少なくなったように思う。隼は「いい人だな」と相槌を打った。
それから、奈央の夫の月本とは随分違うと考えずにはいられないのだった。
もし、奈央が結婚した人が、一途で奈央のことを真っ先に気にかけてくれるような人だったなら――奈央は今も生きていただろうか。
彼女がいない今となっては叶いもしない、でもあったかもしれない未来を脳裏に思い描く。
葬儀の日の夜、隼は自宅の奈央の部屋に足を運んだ。
奈央が社会人になって家を出て行くまで使っていた、6畳半の部屋だ。
彼女がいつ帰省して泊っていってもいいように、知央が毎月布団を干して掃除をして、手入れをしていた部屋のため綺麗に片付いている。
しかし、奈央の荷物はそのまま残っていて、隼は床に座って娘の思い出の品に手を伸ばした。
学生時代の工作や、授業で描いた絵や書道の作品。卒業証書や卒業アルバムも紙袋に入れて残っている。
ふと、帰りに見た〈星野茜〉の名前を思い出して、隼は小学校の卒業アルバムを開いた。ページをめくっていくと、彼と同じ名前の男子生徒の写真を見つけた。
一重で目つきが鋭く見えるが整った顔立ちの色白の男子生徒だった。彼の写真の近くには、奈央の写真もある。
更にページをめくると、修学旅行や遠足の写真を見つけた。奈央が映っている写真も数枚あったが、そのほとんど全てに星野茜が一緒に映っている。
写真からは2人が親しかったのだろうということが伝わって来た。
咳き込みながらアルバムを閉じ、紙袋に戻す。
ストレスからか胸が強く痛み、そのまま横になった。
肺がんのステージ4は、手術ではなく薬での治療が主になる。
5年以上生きられる可能性は1割にも満たない。診断を受けてから時間が経つため、いつ病状が悪化してもおかしくないというのが現実だ。
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