498人が本棚に入れています
本棚に追加
/317ページ
『やっぱり、結婚するなら奈央がいいんだ』
拓真からのLIMEに、莉子は吐き気を覚える。
キレイ事ね、と鼻で笑いながらキーボードを素早くフリックし、文字を入力する。
『じゃあ何で私とデートしたの?』
『誘ったのは君じゃないか』
確かに拓真の言う通りだ。
大型連休の終わり、奈央と行くはずの温泉旅行を中断してでも会ってほしいとお願いしたのは、莉子の方だった。
緊急の相談がある。頼れるのは拓真だけなのだ。
そんな常套句にあっさり騙され、ホイホイついてきた拓真に非がないとは到底思えないけれど。
『でも、奈央とのデートをドタキャンして飛んできたのはあなたの判断でしょ?』
莉子が送信すると、既読はついたものの返事は来ない。
どうやら、図星を突かれて返信に困っているようだった。
拓真と2人で会ったのは、百貨店に行ったのが1度。
それから、そのデートのことを奈央に話さないでほしいと口留めをするためにカフェに誘われたのが1度。
莉子のことを、「可愛い」「奈央より愛嬌がある」と褒める割に、拓真は莉子に手を出してこなかった。
浮気をするほどの勇気がないのか、莉子を褒めながらも本命は奈央であるのか。
前者なら許せる。しかし、後者であるなら莉子にとっては屈辱だった。
「…奈央の分際で私より先に幸せになることが許せないのに。私より愛されているなんて、もっと許せない」
莉子は、返信がないままのLIMEの画面をじっと見つめた。
それから、憎さがこみあげて来て、壁に向かってスマホを投げつける。
ゴンと鈍い音で、壁に跳ね返されたスマホが床にぶつかった。
同時に、LIMEの通知音が鳴る。
「…ああ、もう」
莉子は髪を掻きむしりながらベッドから立ち上がり、遠くに転がったスマホを拾いに向かった。
最初のコメントを投稿しよう!