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「アンタが悪いのよ、奈央」
莉子はスマホを拾いながら呟く。
私より先に幸せになるなんて許さない。
今までずっと、いい思いをしてきたくせに。
スマホを拾い上げ、画面を見るとガラス製の保護フィルムに亀裂が入っていた。
蜘蛛の巣のような亀裂を指でなぞりながら、本体は無事でフィルムが割れただけだと確信する。
「いい思いしてきたんだから、ひとつくらい私に幸せよこしなさいよ。そうしたって、罰なんて当たらないんだから」
初めから彼女が憎かった訳ではない。
出会った頃は彼女のことを友達だと信じていた。
莉子は唇を噛み締めた。
彼女のことを嫌いになったのは、いつからだっただろう?
あれは、小学校5年生の頃だっただろうか。
莉子は記憶を辿った。
―5年生の春、クラスに転校生がやって来た。
彼は名前を星野茜と名乗った。
初めは、クラスメイトは彼に好意的だった。
しかし彼がクラスにやって来たことで、彼に関するある噂を耳にした。
「星野さんは元々愛人で、略奪婚なんだって」
莉子の母親が、酒を飲みながらそう口走った。
そして、愛人である茜の母親が、正妻を追い出して妻の座を得たのだと。
それを聞いた時、莉子は許せないと思った。
学校で茜は、そんな背景を感じさせないほどヘラヘラと笑っていた。
それも、幸せそうに。
許せないと思ったのは、別に正義感でも何でもなかった。
毎晩、莉子の両親は口論が絶えない。
深夜に仕事から帰って来る父親と、お酒をひっかけて父を待つ母親の口論は、夜の遅い時間に繰り広げられる。
莉子の眠りを妨げることもしばしばあり、そのせいで会話もよく耳にしていた。
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