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何足もの靴が視界にぼんやりと浮かんでいる。
「大丈夫ですか!?今救急車呼びましたから!」
若い女性の声が聞こえた。
ああ、やっと呼んでくれたのか……。
「……なーんて、嘘ですけど」
同じ声が、介抱する振りをしながら俺の耳元で囁くようにそう行った。
は?嘘ってどういう事だ?
「本当は呼んでないんですよ、救急車」
ふざけるな。人の命が掛かってるんだぞ!
「それはこっちの台詞よ。30年前、あなただって救急車を呼んでくれなかったくせに」
……?
女性は俺を介抱する振りをしながら続けた。
「生まれ変わっても、あなたへの憎しみは消えなかったみたい。まあ自業自得ね」
生まれ変わった?30年前?
まさか、この女はあの女の子の生まれ変わりだとでもいうのか?
そんなはずが……。
白目を向きながら口から泡を吹き、苦悶の表情を浮かべたEの意識はそこで途絶え、救急車が到着したのはそれから50分も後の事だった。
『若い女性が救急車を呼んだ』と叫んでいる目撃情報がいくつかあったが、女性は被害者を少しの間介抱した後に立ち去ったという。
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