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目の前にいるのは彼女だった。俺の個人タクシー初の客。青いセダンを追わせた女。
「もう返事できないか。結構抜けたもんね」
視界の先に俺の足が見えた。裸足の足は、うっすらと赤い水がはられたバスタブに浸かっていた。そこから力が抜けているようだった。
「妹は帰らせた。あとは私とお前の問題」
女が俺の頭上に手を伸ばすと、俺の首が締まった。ベルトでも巻かれているようだ。苦しさに滲む涙で、女の顔が歪んで見えた。
「よく平気で普通に生きてたよね。罪が消えたわけじゃないから。私が完全に消してあげる、その汚い存在を」
朦朧としはじめた頭に女の声が響いた。
――この女は、いったい何を言ってるんだ?
「お前は私の妹を汚し人生を奪った。それは命を奪ったと同じなのよ。だからお前を追いつづけた。やっと見つけた。それなのに。それなのにお前は普通に! 妹は今でもお前に夢で苦しめらてれっていうのに!」
一旦緩められた首が、また絞めつけられた。もう視界には何も映らなかった。
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