狼と羊 ☆第198回妄想コンテスト「追いかける」入賞

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 俺は目が合わないように、青いセダンのバックミラー越しに運転手を見た。そこには大女優がしているイメージの強い、大きなサングラスをした女が映っていた。女となれば、浮気相手で間違いないだろう。  信号が青に変わると、俺はゆっくりとアクセルを踏みながら女性客に声をかけた。 「あのー」 「はい?」 「走っている車が少ないので、じきにバレてしまうと思うんですが」 「責任は問わないので……お願いします」  口を真一文字につぐみ頭を下げる姿に、俺は彼女の力になりたいと思った。 「こんなお願いをして、すみません。運転手さんをしてらっしゃると、たまにあったりしますか?」  やさしい口調だが、どこか芯の強さを感じさせる声色に心が揺れた。 「実は、この仕事は今日が初めてなんですよ。あ、迷惑なんかじゃないですよ。以前は長距離バスの運転手をやっていたんですけど、体を壊してしまって。それで個人タクシーをね。いやーこんな経験が出来て良い記念日になりそうです」  面白くもないが俺は声を出して笑った。 「私もです」 「え?」  視線を感じて、ちらりとバックミラーを見ると彼女が視線をそらした気がした。
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