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週明けの朝、夢花は親友の雨宮梨花にことのあらましを伝えて嘆き、机に突っ伏した。梨花が夢花の落とした白紙の進路希望調査票を拾いながら溜め息を吐く。
「それで、その狐面がヒントくれなかったから進路が書けないって?」
「そう!!」
「いや人のせいにすんな。自分で決めなさいよ」
夢花と梨花は自他ともに認める親友だがタイプは全然違う。夢花は運動はできるがそれで食べていけるほどではないし、勉強はできないししたくない。それに対し、梨花は運動はしたくないが勉強は苦じゃないしかなりできる。夢花は楽観的を通り越して能天気、梨花は堅実だ。
「でもでも!それにしたって道がありませんは酷くない!?私には何の才能もないってか!」
「まあまあ……診断みたいなもんだったんでしょ?その狐面の人、実は話した内容で相手が深層心理でやりたがってることを答えてただけで、夢花はマジで何も決まってなさすぎて答えが出なかったのかもよ」
「才能がないってわけじゃない……?」
「たぶんね」
梨花がそれっぽい言葉で慰めれば夢花は縋るような目で梨花を見た。捨てられた仔犬のようなそれは効く相手には効くが、出会った頃から梨花にはあまり効かない。彼女は呆れ顔で肩を竦めた。
「じゃあ梨花と同じ大学書く」
「それは絶対再提出になるからやめな」
「でも別に学びたいこととかないし〜やりたい仕事もないし〜てかまだ働きたくないし〜」
「あんたが今からでも猛勉強するんなら私と同じところ書いても受け取ってもらえるかもね」
「それはやだ」
梨花はまた肩を竦め、盛大な溜め息を吐いた。やる気さえあれば伸びるだろうに、夢花は肝心のやる気を母親の腹の中に置いてきたらしい。
とりあえずやりたいことを探す期間として進学するのもアリだという梨花の助言のもと、夢花はギリギリ手が届きそうな偏差値の大学を調べて進路希望調査票に記入し、休み時間に提出しに行った。
「進学にしたのか」
「学びたいこととかないけど……こう、やりたいこと見つける猶予期間的な……」
「お前な……。んー、まあ……雨宮のお陰で国語の点数は伸びてきてるし……ここなら狙えるだろう。これで受け取っておく。少しはやる気出せよ」
探るような教師の目に、夢花は思わず目線をそらしながら素直に答えた。教師は呆れ顔を隠しもしなかったが、無理な偏差値の志望校でもなかったため、進路希望調査票はそのまま受け取られた。
「梨花ありがと〜!進路の紙受け取ってもらえた!」
「よかったね」
「これで家族旅行置いてかれなくて済む!」
「お土産よろしく」
どうやら進路希望調査票の再提出がバレて母親から家族旅行に連れて行かないという脅しをかけられていたようだ。教室に戻るなり歓喜に謎のダンスを踊る夢花を尻目に、梨花は教科書を開いた。
旅行、旅行、と踊る夢花は、もうすっかり狐面のことなどどうでもよくなっていた。声が歪んで聞こえたのも、気付いたら通りに出ていたのも、会った場所を思い出せない不気味さも、夢花は過去のことにしてしまっていた。
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