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1話
ぼくはリオン。町の郵便屋。
毎日、あちらの家やこちらの店に手紙を届けます。
配達の日々のなか、ぼくは恋に落ちました。一軒家で一人暮らしをする娘さん。
名前はセアラさんといい、長くてふわふわな金髪と、エメラルドのような瞳の人。ぼくを見かけると、「こんにちは、郵便屋さん」とにっこり笑いかけてくれます。
彼女は待っているのです。ぼくが届ける手紙を。
毎月の初めに、セアラさんあての一通が舞い込みます。それを配達すると、彼女はとても幸せそうな顔になるのです。
差出人の住所や名前は書かれていません。宛先を記す文字からは、真面目な印象を受けます。
相手が誰か気になりましたが、郵便屋が聞いてはいけません。
分かっているのは、その手紙が彼女に幸せを運んでくるということ。配達するときに、ぼくはセアラさんのいちばんの笑顔を目にしますが、ただそれだけです。
普段、仕事で町を歩き回っても、彼女と会うことはめったにありません。
月の初めになると、二時ごろやってくるぼくを、セアラさんは待っています。雨の日でも、暑くても寒くても。
ぼくは挨拶のあと、すこし天気の話をします。
「こんにちは。今日は気持ちのいい晴れですね」
すると相手は笑顔で応えてくれます。
「配達にはちょうどいい気候ですね。いつもお疲れさまです」
そして手紙を渡すと、セアラさんはとても嬉しそうに「ありがとうございます」と言ってくれます。
郵便屋としては、いちばん元気になる言葉。でも、ぼく自身はちょっと切なくなります。
これがぼくの仕事。
彼女を幸せにすることはできませんが、幸福の手紙を届けます。この気持ちを伝えることはできませんが、好きな人を笑顔にするお手伝いをします。
郵便局に彼女あての手紙が来ると、わずかなほろ苦さを感じつつ、あの喜ぶ姿が見られる幸せに包まれるのです。
「暑い日や寒い日は、お家に声をかけますから」と言うのですが、セアラさんは「すこしの時間ですし」と答えて、手紙を待っています。
それだけでなく、「配達が大変ですね」と気遣ってくれます。その優しさに、ぼくはつい嬉しくなってしまうのです。
もともと体は強いほうですが、うっかり風邪など引かないよう気をつけます。仕事のためでもあり、なにより、彼女に配達する役割は誰にも譲りたくなかったのです。
手紙が来るとき以外でも、運が良ければ顔を合わせるかもしれません。だから毎日、元気に働きます。
そんな日々が、ずっと続くものだと思っていました。
けれど。
「郵便屋さん、お手紙ありませんか?」
「今月は遅れているようですね。きっと明日には」
「郵便屋さん、お手紙は?」
「まだ届いていないようです。すみません」
「郵便屋さん……」
「……すみません」
例の手紙が、ぱったり来なくなったのです。
それでもセアラさんは待ち続けました。ぼくを見ると、すがるような目をするのです。
郵便がないことを伝えるのは、つらくてならなかった。でも、それもまた、ぼくの仕事なのです。
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