4人が本棚に入れています
本棚に追加
結果はダメだった。
その後紆余曲折あって、中小企業に就職した。
いつもヨレヨレ状態の俺。
もちろん一人暮らしだから誰も迎えてくれない。
そんな時、賑わった夜の大通りを歩いていると、かつての同級生を見つけた。
「雨宮、だよな?」
中学生の頃、美人と言われるこの立ち姿を忘れるわけがない。
隣の席になった時はどれほどはしゃいだか。
彼女はいつだって男子生徒の夢みたいなものだった。
「富田くん?」
自分の名前を覚えてくれていることに嬉しさと驚きを感じる。
「ひ、久しぶり」
そんな言葉しか紡げない。
彼女には美しさと麗しさとかそういう圧がある。
「うん。久しぶり。」
笑顔になる彼女。
俺の心の中は狂喜乱舞になっていた。
「あー、晩飯まだ?」
「うん。富田くんは?」
「俺もまだなんだよね。だから、一緒に食べに行かない?」
「いいね」
彼女の動きひとつひとつが目に止まる。
スラリとした指に、まるで宝石のような瞳。
絹のようなツヤがある髪と、誰もが褒め称える容貌。
全てを手に入れたくなる。
「雨宮は何食べたい?」
「富田くんの食べたいものでいいよ」
「え、でも…」
「遠慮しないで」
ニコニコの笑顔が俺の心を弾ませる。
中学生の時の俺が戻ってきたみたいだ。
「じゃあ、この店でいい?」
「うん」
大学の時の元カノとも行った店。
別にそんな思い出はない。
「いらっしゃいませ〜。二名様ですか?」
「はい」
「では、奥の席へどうぞ」
「空いててよかった」
「そうだね。富田くんはこのお店に来たことあるの?」
「まあ、一回だけ」
「そうなんだ」
注文をして、料理を待つ。
その時間の間も雨宮の仕草は目にとまる。
料理が運ばれてきて食べ始める。
二人ともパスタを頼んだ。
「おいしいね」
その言葉が心に沁みていく。
嬉しい。
初恋の人のこんな近くでこんな長い時間を過ごせるなんて。
自分は幸せ者だ。
店から出たら、雨宮を送った。
夢だったのだろうか。
でも、友達の欄に雨宮の名前がある。
これは夢じゃない。
現実だ。
神様は就職を失敗させた代わりに運命の出会いを用意してくれた。
その夜はスヤスヤとよく寝れた。
最初のコメントを投稿しよう!