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「三神さん。ニクソンの演説って知ってますか?」
お風呂上がりに、昼間のことを思い出して、君に尋ねてみた。
君は炭酸入りのレモネードを飲みながら首を傾げた。
君は湯上がりに甘いものを飲むのが好きだ。
しゅわしゅわと弾けてあまずっぱい。
「I'm not a crook ってやつ?」
「三神さん、知ってるんですか?」
思わず身を乗り出してしまった。
こういう時に実感する。体育専門推薦枠と一般入試枠の違いってやつ。
「どういう意味なんですか?」
「私は嘘はついてない、とかっていう意味じゃなかったかな」
君はキッチンカウンターにレモネードのグラスを置いた。
冷蔵庫を開けて牛乳パックを取り出して、新しいグラスに牛乳を注いだ。
「柏田くん、はい、どうぞ」
俺は寝る前に牛乳を飲む。
もう十八歳を過ぎて、きっとこれから背が伸びるってことはないんだけど、習慣になっている。
君は俺の口元をじっと見つめている。
「牛乳でさ。柏田くんの唇がちょっとだけ白くなるって、色っぽいよね」
お腹がざわっとする。良い意味で。
良い意味で、なんだけど。
スタジオで隼が言っていた言葉を思い出す。
耳で生きているか、目で生きているか。
「三神さんも俺も、どちらかといえば、目で生きていますよね」
君は写真を撮るわけだし。やっぱり目だと思う。
「柏田くんどうしたの?」
君が天使みたいな顔で笑う。
「今夜は目隠しプレイでもする?」
牛乳を吹くかと思った。
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