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「低血糖ですよ」
君がまた言った。
「何にも食べてないから。血糖値が下がってふらふらするし。水分も摂ってないでしょう?」
「うん」
僕は椅子から立ち上がって、足元がふらふらするふりをした。
「お腹へった。柏田くんのことが食べたい」
君は僕を抱きとめて、赤い顔をする。
しばらくの間、もぞもぞとしゃべる。あの、とか、その、とか。
君はいつも姿勢がよくて言葉の歯切れもいい。体育会系の礼儀正しさ。
そんな君がもぞもぞしていると、僕は足がふらつく演技を続けざるを得ないよね。
せざるを得ないって言葉、悪くない。
大人になった気がする。
「汗をかいてるんで、シャワー浴びてからでいいですか?」
「よくないけど、いいよ」
僕は自分が汗をかくのさえ不快なインドア派なんだけど、君の汗は嫌いじゃない。
洗い流しちゃうのがもったいない気がする。
「どっちですか?」
「柏田くん。やっぱりさ。先に夕ごはん食べてから、一緒にお風呂に入ろうよ」
昼ごはんを食べていないことを思い出したら急にお腹がへってきた。
「からかったんですか?」
ぼそっと僕の耳に君の吐息。
だって可愛いんだもん。君のこと食べたいって言ったら、素直にその気になっちゃう君が可愛い。
可愛いのが悪い。
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