プリンス・シンドローム

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「柏田くん。あの子、柏田くんの隠し子?」  思わず呟いてしまった。  最後にやって来たのは、まだ小学校に上がっていない、という年齢の男の子。  お母さんに手を引かれ、眠そうな顔をしている。  小さな王子さまみたい。  小王子は案の定、カメラの前に立つのを嫌がった。  お母さんといっしょがいい、と駄々をこねる。  君が小王子の手を引く。小王子はお母さんの手を離さない。三人ともカメラの前に立つ。 「今日は何を踊るの?」 「えーと、フランツ?」  君の問いかけに小王子は泣きそうな顔になり、代わりにお母さんが不安げに答えた。 「発表会なんて初めてなんです。この子も私も」  僕はシャッターを押した。  逃したくないのに、見たくない光景。  小さな男の子と優しそうなふんわりしたお母さんと、君。小さな家族みたい。  君は、すごく若々しいお父さん。  僕にも柏田くんにも、そういう選択肢があるってことに改めて気が付く。  女の子と結婚して家族を持つっていうチョイス。 「最後にポーズ取るかな? ひざまづくやつかな?」  君が小王子の顔をのぞき込む。小王子は首を傾げる。お母さんも首を傾げる。 「今日は、とりあえず舞台の真ん中まで出てこられたら、いいかなと思ってます」  お母さんのため息と、縮こまる男の子の肩。 「ちゃんと出来るよ。大丈夫。真似してみて」  君がひざまづいてポーズを取ると、おかしいくらい決まっていて、僕はおかしくなる。  君は、今日は僕が貸してあげたラモーンズのTシャツを着てて、まあ、古着を着た王子さまだけどさ。  全然きらきらした格好をしていないのに、きらきらしてる。 「こう?」  小王子がやっと顔を上げる。 「うん。かっこいいよ。舞台に出たら、一番真ん中まで行って、前を向くんだよ。それだけでいい」 「前ってどっち?」  男の子が尋ね、君は僕の方を指差した。  慌ててカメラを構え直す。  小王子は固い顔をしたままカメラに収まった。  きりっとしたいい顔が撮れた、と思う。
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