プリンス・シンドローム

3/7
前へ
/47ページ
次へ
「柏田くんもあんな小さい時から踊ってたの?」  撤収作業をしながら僕は尋ねる。  君の実家がバレエ教室をやっているのだと、僕は知ってる。  今日はポーズ写真の撮影のバイト。  この後、バレエの発表会の本番中の写真は他の人が撮る。そっちの方が難しいから。 「最初は、確か、眠れる森の美女の赤ちゃんの役ですよ。寝てるだけ」 「美女の役?」  君は三脚をバッグにしまいながらうなずいた。 「まあ、そうです。赤ちゃんなら性別は関係なかったんじゃないですか?」  その写真は残っているのかな?  君が王子じゃなくて王女に成長してた場合のことを考える。どっちにしろ、きれいだっただろうけど。 「柏田くん。どこが真ん中で、どっち側が前なんだろうね」  上司にカメラと撮影器具を返す。  僕は君の手を引く。手を繋いでる僕たちに手を振って、上司は市民文化会館大ホールのドアを閉めた。  あと三〇分もすれば発表会が始まる。  文化会館は出来たばかりのモダンな建物だ。  外壁の一部はガラス張りになっている。  僕は君の手を引いたまま外へ出た。建物を回り込んでガラス張りの外壁の前まで行く。 「思った通りだ」  僕は君の手を握りしめる。 「ここで撮ったら、窓に光が反射して、鏡にシルエットが映るみたいに撮れると思ったんだよね」  僕の満足そうな声を聞いて、君は足場を確かめた。  君は僕のこと、よくわかってるね。 「柏田くん。白鳥の第一ナントカっていうの踊ってよ」
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加