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all my ears
「柏田が言いたいのは、柏田と三神さんと、どっちが上に乗るかってこと?」
ピアノ蓋の上に肘をついて隼が俺を見上げた。
上目遣いの妙な色気。
顔が良いというだけで、たいそうなことをしゃべっているふうに感じられる。隼はそういうタイプ。
「いや。まあ。上下っていうか、左右っていうか」
俺は前腿のストレッチを続けながら答えた。
受けと攻め。
ネコとタチ。
いろんな言い方があるみたいだけど。
同性同士でどっちがどっち側をやるか。
考えている間に、もう分からなくなってくる。
わざわざそんなこと考えなくてもいいような気もするし、大事な気もする。
だいたい、なんでこんな話になったんだっけ。
ピアノの側面の黒い光沢の中に、自分の身体が歪んで映り込んでいる。
この部屋。第五スタジオはダンス部が自主練を許可されている場所。
スタジオ内のグランドピアノはずっとカバーを掛けられて放置されていたけど、最近は幸人くんが弾いている。
幸人くんはマッチ棒みたいな体つきをしている。ひょろっと細長い。ちょっと猫背気味な姿勢でピアノを弾く。
幸人くんの指も本人と同じように細長い。
幸人くんがピアノ蓋を開けて、鍵盤を保護していた布を畳んで脇に寄せる。おひな様の下に敷いてある毛せんみたいな布。
その一連の動作の間、隼が幸人くんの手指を見つめているのを、俺は見逃さない。
「すげー見るじゃん?」
俺の視線に気が付いて、隼が不敵に笑う。
隼はピアノ椅子に座る幸人くんの背後に回り込んで、後ろから抱きつくように彼にもたれかかった。
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