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隼は俺の背に手を添えた、俺を抱きとめるような姿勢で、俺の耳に口付けるみたいに言葉を続けた。
「そういうのってやばいだろ。内容なんか関係なく、気持ちいい。クスリみたいに」
がくっと腹から力が抜けてしまった。
隼は俺のことを抱きとめた。社交ダンスみたいな姿勢になってしまった。
「・・・・・・やばい」
腰を痛めたらどうしてくれる? と言い返そうとして、黙る。
顔が近い。
顔が良いって罪だ。
隼にときめきを抱く必然性はなんにもないんだけど、造形的に良く出来てるな、と見惚れそうになる。
まつげの生え際とか。
自分がつばを飲み込む音がスタジオに響いた。
耳を支配する緊張感。
ピアノの音が途切れて、しん、と静まりかえっていた。
内容なんか関係なく、気持ちいい。
それって倫理的にやばい気がする。
詐欺師と一緒じゃないか。
メッセージ性よりも耳ざわりの良さ、なんて。
音の途切れたスタジオの中で、隼の頭越しに幸人くんと目が合った。
その瞬間、理解する。
隼はこうやって、もてあそぶ。
隼は幸人くんに見せつける。
俺の身体を隼が支えているところを、幸人くんに見せつけている。
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