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「隼。大事なものは大事にしろよ」
俺は下肢に力を込めて、姿勢を直した。
「隼にとってはどうか分かんないけど。気持ちいいことより、相手を大事にすることの方が、俺には大切だから」
俺は立ち上がる。
隼の手を押し戻しながら伝える。
隼に何かが伝わるのかって、それも分かんないけど。
隼はアーモンド型の目を見開いて、それから一気に破顔した。
笑うと無邪気になるところが罪深いな、こいつ。
「柏田って、いいヤツだな」
隼は身をひるがえしてピアノのところに舞い戻ると背後から幸人くんに抱きついた。
抱きついて、幸人くんの髪の中に手を入れてかき回した。
甘える子犬同士みたいに見える。
幸人くんの指先が再び動き始めた。
ピアノの音が、もう一度、空間に階段を作り始める。
上ったり下がったり、リズミカルにどこまでも。
心地よい雨音にも似ていた。
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