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逃亡生活が始まって一週間。野宿を繰り返している。
食事も睡眠も、まともに摂取したのはいつだったか。疲労と怪我で、おぼろげだ。
「追ってくる奴らに見覚えは」
「さぁ。でも」
顔は知らぬ。
ただ月音の命を狙っているのはわかる。
だからこそ逃げ出したのだ。施設に押し入って殺されるのは御免である。
頭、首、腕、腹、足。全ての傷に治療を終えると「病院は」と訊かれて首を横に振った。
治療費など払えるあてはない。身元がバレて施設に逆戻りも避けたい。
真っ白な包帯を見つめてから、彼に向き直り手を差し出す。何を言わずとも諸毒液を渡された。
彼は、するすると上着を脱ぎ捨てる。
程よく筋肉がついた、健康的な上半身。均整のとれた瑞々しい身体は、壮絶な色気を纏っていた。
自分とは異なる異性の裸に物珍しさを覚えたが、それよりも目がいったのは、ふたつ。
――美しい華が首筋から鎖骨にかけて咲いていた。
色鮮やかに、艶やかに咲き誇る大輪。血の色に彩られたそれは、見る者を魅了し威圧する。
強烈に、強引に男が普通ではないと、わからせられる。
息をのむ美に、男がしなを作り、細い指で月音の頬を撫でた。
とろりと熱を孕んだ瞳を細め、ついっと首をなぞる。くすぐったさと、むせかえる色香に呼吸が乱れた。
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