87人が本棚に入れています
本棚に追加
6.華は夜空を知る
「さて、これ以上は自分でしよう。お嬢さんには刺激が強すぎる」
「……はい」
にっこりと笑う彼に月音は素直に頷く。
横腹をどうやって止血するのか気になるが、彼の進言から後ろを向いた。
そもそも自分でできる範囲は優に超えた傷であり、病院に行くべきなのだが。大丈夫、と自信ありげな彼に任せるほかない。
月音では、オロオロして無駄に時間を使うだけだ。
しばらくの沈黙。
広々とした部屋で、金属が軽くぶつかる音だけが響く。
時々、粘着質なのも耳に届いて勝手にグロテスクな映像が頭に流れた。
手持ち無沙汰になり、月音は恐ろしい想像を振り払うためにも、男へと問うた。
無視されてもかまわない。治療に専念したいのなら、黙るだろう。そのときは月音も静かに、たえよう。
「お名前を聞いてもいいですか」
「うん? 俺の名前か」
平然と、男は答える。
「月花泰華だ」
あぁ、やはり。
月音は急速に体が冷え、ぞっとするほど頭がクリアになっていく。心が凍っていくのを、ただ感じ取った。
月花を知らぬ者など、この羽無町では存在しない。
水底より深く暗い世界を統制する巨大組織。
警察すら手を出せない闇夜を泳ぎ生きるものたちの名だ。
最初のコメントを投稿しよう!