6.華は夜空を知る

3/5
前へ
/239ページ
次へ
 二十代前半の若さだが、今の含みをもたせた言葉。  ――現当主か。 「騙っているわけではないですよね」  月花という名の影響力はすさまじい。  特にこの町では絶対に逆らってはならない。報復を恐れて偽る人間もいないが。  一応確かめれば、泰華は放り投げたジャケットへ、ぞんざいに手を突っ込む。  何かを探り当てて、ずるりと取り出したのは。  現れた黒に、背筋が凍った。  自分とは縁遠い重量と存在感は、嫌でも悪意と凶悪さを思い知らせる。  深淵の穴。指をかけるトリガー。拳銃だ。重厚な作りは、この無法地帯の町であっても、一般人では簡単に手に入らない。  それも月花と凪之が管理しているから、らしいが。 「持つか?」  軽々しい台詞に、体は考えるより先に拒絶した。  扱いかたもわからない。分不相応な代物は身を滅ぼす。  思わず距離を取ろうと仰け反る。    泰華は変わらず花のような美しい微笑みをたたえつつ、拳銃を見えないようにしまった。 「そんな怯えないでくれ。一般人に俺たちは手出ししない。まぁ悪さを働けば、その場限りではないが」 「具体的には」 「そうだな。俺たちの管轄で勝手に薬をばらまいたり、商売の横取りはだめだな。喧嘩を売ればどうなるか、見せしめをしなくてはならなくなる」
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加