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二十代前半の若さだが、今の含みをもたせた言葉。
――現当主か。
「騙っているわけではないですよね」
月花という名の影響力はすさまじい。
特にこの町では絶対に逆らってはならない。報復を恐れて偽る人間もいないが。
一応確かめれば、泰華は放り投げたジャケットへ、ぞんざいに手を突っ込む。
何かを探り当てて、ずるりと取り出したのは。
現れた黒に、背筋が凍った。
自分とは縁遠い重量と存在感は、嫌でも悪意と凶悪さを思い知らせる。
深淵の穴。指をかけるトリガー。拳銃だ。重厚な作りは、この無法地帯の町であっても、一般人では簡単に手に入らない。
それも月花と凪之が管理しているから、らしいが。
「持つか?」
軽々しい台詞に、体は考えるより先に拒絶した。
扱いかたもわからない。分不相応な代物は身を滅ぼす。
思わず距離を取ろうと仰け反る。
泰華は変わらず花のような美しい微笑みをたたえつつ、拳銃を見えないようにしまった。
「そんな怯えないでくれ。一般人に俺たちは手出ししない。まぁ悪さを働けば、その場限りではないが」
「具体的には」
「そうだな。俺たちの管轄で勝手に薬をばらまいたり、商売の横取りはだめだな。喧嘩を売ればどうなるか、見せしめをしなくてはならなくなる」
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