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彼らに目をつけられれば、次の日には跡形もなく消える。
死体すら残さない。抹消するのだ。秩序をもたらすと同時に、常人がおびえる所業もこなす。
「月音」
思考の海に沈むのを彼の声で引き上げられた。
初めて呼ばれた名前に、勢いよく振り返る。
血に濡れた素肌は拭き取られ、白磁のように美しい色があらわになった。
細くも筋肉がついた身体から逃れるため視線を上に向ければ、彼の優しげな微笑みがうつる。
慈しみに満ちた瞳が月音をまっすぐに届く。
「誓って俺たち月花は、月音を狙っていない。むしろ助けるつもりでいる」
「……理由をお聞きしても?」
真意を読み取りたくとも、彼の表情は一貫として、微笑むのを崩さない。胸元に咲く大輪の曼珠沙華のごとく美しい。
華やかで、派手で、毒々しい。
「きみは一般人だ。こちらの人間ではないのに、巻き込まれている。それは看過できない。何事にも決まりはある、それを破れば残るは混沌のみで制御ができなくなる」
自身の胸元に咲いた華を、彼は指先でなぞる。
軽く伏せられた瞳が僅かに揺れて、乱れたかのように思えた。形の良い唇からため息じみた吐息がもれる。
「それは月花と凪之、双方望むことではない。俺たちはそういうのを正す役割を担っている。一般人を狙う輩は排除しなければ」
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