6.華は夜空を知る

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 慈愛に満ちた声が、一瞬で氷のように冷たく鋭くなった。  闇がずるりと這い寄る、恐ろしさに月音は身震いする。  殺意ではなく、無に等しく粛々とした制裁を下すのだと容易に想像がついた。 「一般人は巻き込まない。それが数ある決まりのひとつ。だから、きみは月花からすれば守るべき存在だ。安心してくれ、必ず助けると約束しよう」  信号機の色が切り替わるように、空気が一変した。優しくまるで常人のように、害のない雰囲気。  あまりにも機械的で、不気味さに月音の心臓は早鐘をうつ。冷や汗が額から流れた。  からからに、かわいた喉を無理矢理動かして、声を振り絞る。苦労して出せばみっともなく震えていて頼りない。 「はじめから、知ってたってことですか」 「何が?」 「私が何者かに狙われていて、あそこにいると確信して、近付いた」  そうだ。  彼はこちらの状況を知りすぎている。  助けるべきだと語るのが嘘でなくとも、あそこで出会ったのは偶然ではなく仕組まれていたのならば。  それは月音にとって恐怖の何ものでもない。  彼はしばしの沈黙の末、眉を下げて月音の頬に触れる。汗をぬぐい、愛おしそうに目を細めた。  こてん、と首を傾げる姿は可愛らしい。 「そうだとして、きみに不都合があるか?」  心底不思議そうな問いに、どうしようもなく強烈な感情が湧き上がる。  逃げるべきだと警鐘がけたたましく鳴った。  男は月音を見つめたまま、更に言葉を重ねた。逃さないよう、ゆっくり言葉の毒を刺して、体内に巡らせて動けなくさせる。 「俺はきみのことを知っている。おそらく、きみ以上に」
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