87人が本棚に入れています
本棚に追加
情熱的、こぼれた吐息の熱っぽさ、近づいた顔を拒まないでいれば、柔らかく、小鳥のような口づけが頬に落とされる。
「今日帰ってきたら、本格的に嫁に迎え入れる。嫌なら今のうちに逃げた方がいい」
「後悔しますよ」
役にも立たない、むしろ足を引っ張る。
愛しい男で、月花において何より大事にされる命を、月音は自分のために利用する。
周りが必死に彼が散らないように命をはっているのに、一番すぐそばにいる女は、蔑ろにする。
月音の命を優先する、躊躇わず彼を盾にする。
そんな女は嫁になど、彼には何の利益もないはずなのに。
「しないさ、君が欲しい」
迷いが一切ない。断言に月音はなじりたくなる。
恋してないくせに。
そう突っぱねられたら、どれほど楽だろう。
しかしそんなの許されない。
自分も彼を犠牲に、利用して生きるため手を取ろうとしている。言う権利ないのだ。
あぁ、もしかしたら。それさえ彼の思惑通りなら。
「――本当に、ずるいひと」
拒まないって知っているくせに。
ぽつりと呟けば、彼がとろけるような、
「死んでしまいたくなるほど、幸せだ」
華のごとく、艶やかで甘い笑顔で応えた。
最初のコメントを投稿しよう!