50.月の終演

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 情熱的、こぼれた吐息の熱っぽさ、近づいた顔を拒まないでいれば、柔らかく、小鳥のような口づけが頬に落とされる。 「今日帰ってきたら、本格的に嫁に迎え入れる。嫌なら今のうちに逃げた方がいい」 「後悔しますよ」  役にも立たない、むしろ足を引っ張る。  愛しい男で、月花において何より大事にされる命を、月音は自分のために利用する。  周りが必死に彼が散らないように命をはっているのに、一番すぐそばにいる女は、蔑ろにする。  月音の命を優先する、躊躇わず彼を盾にする。  そんな女は嫁になど、彼には何の利益もないはずなのに。 「しないさ、君が欲しい」  迷いが一切ない。断言に月音はなじりたくなる。  恋してないくせに。  そう突っぱねられたら、どれほど楽だろう。  しかしそんなの許されない。  自分も彼を犠牲に、利用して生きるため手を取ろうとしている。言う権利ないのだ。  あぁ、もしかしたら。それさえ彼の思惑通りなら。 「――本当に、ずるいひと」  拒まないって知っているくせに。  ぽつりと呟けば、彼がとろけるような、 「死んでしまいたくなるほど、幸せだ」  華のごとく、艶やかで甘い笑顔で応えた。
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