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「友人を労る心ぐらい持てや」
騒ぐ誠司を意にも介さず、人差し指で無情にも通話終了した。静かになった携帯電話をスーツのポケットに仕舞う。
凪之の声が聞こえなくなったのを確認して、震える声で問うた。
「あなたも、狙われているの」
ぎゅうと胸辺りの服を握りしめる月音に泰華は、悠然たる面持ちで応えた。
「ああ、少々面倒な事態でな。月花と凪之は恨みを買いやすいから仕方ない。逆らう人間は奇特だがな」
日常として受け入れているらしい彼に、もう一つの疑問をぶつける。
先ほど虎沢秀喜についてだ。
二人一緒だと知られたら、の続きはわからないが、良くないのは十分に察せられた。
「あの、私といると、あなたに不都合があるのでは?」
「心配か、嬉しいな」
「茶化さないでください」
「本気なんだがな」
怒気を含んだ声音にも泰華は怯むわけもなく、のらりくらりとかわしていく。
それから、やはり真意が読めない笑みで覆い隠した。
「きみがそばにいれば、助かる」
意図を感じ取れるほど月音は聡くない。訝しく見つめれば、泰華は立ち上がった。
「きみはきみの心配をしていればいい。それだけで俺は救われる。もちろん、きみには危害が及ばないように、ちゃんと隠しているが」
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