11.月にくちはない

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 諭すかのような、まっすぐで揺るがない瞳。月音は一瞬固まってから、ゆっくりと首を横に振った。  再び謝罪を口にしようとして、 「簡単だ。たった一言『ありがとう』でいいんだ」  底の読めない笑顔ではない。あるのは、清らかな誠意と優しさだと、感じ取れた。  わかるか、と首を傾げて月音の手を握った。温かさが、じんわり広がり、身体中に行き渡る気がした。強ばった心がほぐされていく。  肩の力が抜けて、自然と言葉はあふれた。 「――ありがとう、ございます」 「こちらこそ、俺と一緒にいてくれてありがとう」  俺はきみのそばにいれるだけで、幸せになれる。だからありがとう。  繰り返した言葉を噛みしめるように、大切に紡いだ泰華の瞳が揺らいだ。それは瞬きの間で、見間違いのようにも思える。それほどに、小さな感情の変化だった。  泣き出しそうな、迷子の子供のような。  月音は、よく見てみたくなったが、すぐになりをひそめてしまった。余裕のある、決して心中を悟らせない完璧な笑みで隠された。 「ほら、ご飯が冷めてしまう」 「……はい」  そっと席につく。なれない動作に戸惑いつつも、泰華にならって手を合わせる。  向かいの席で彼は、では、と合図をした。 「いただきます」  声を重ねた。
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