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至れり尽くせりなのが、また意図が読めないので不安を煽る。
柑橘系の香りをまとい、さっぱりとしたところで、あらかじめ用意された白いワンピースに着替えて、寝室へと飛び込んだ。服のサイズはいつ調べて……考えれば考えるほど不自然が見つかるのが恐怖である。
柔らかく沈むベッドに、ゆっくりと横たわり深く息を吐いた。他人がいないというだけで身体から力が抜けていった。
緊張から解き放たれると痛みが存在を主張して訴えるが、気にならないほど安堵を覚えた。追われていつ殺されるかもわからない状態が続いていたせいか、一晩経っても疲れはとれきっていない。
濡れた髪は肩に付かない程度の長さだ。自然乾燥でも構わない、手間を考えれば面倒でタオルを巻く。
目を閉じて部屋の音に集中する。耳は何も拾わない。外の、車の走行音も、人の騒々しさも、風も。何もかも部屋には届かない。まるで切り取られたかのように静粛で清らかだ。全てが新品で白くて、汚れなど一切ない。
――この部屋は守られている。
唐突にそう思った。きっと泰華は、本気で誰もいれる気がない。昨日出会ったばかりだというのに、そこだけは信じ切るのは何故か。それは月音自身にもわからない。
ただ。昨日。月音を好きだと告げたとき。
あの熱を孕む獰猛な瞳が、余裕のない吐息が。嘘は含まれず、むき出しの感情だと知らしめている気がした。あれを演技というには、あまりに。
「こわい」
食い殺されるかと錯覚した。こちらを呑み込む勢いで覆い被さる激情があった。
とくとく、鼓動が規則正しく刻む。唯一の音に耳を澄ませて、意識を眠りに沈めていく。することなどない、したいこともない。ならば体力を取り戻すのに専念すべきだ。うとうと、時間もわからなくなり。やがて。完全に安らかな闇へと飛び込んだ。
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