14.華は月を見守る

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 彼女は、泰華の欲を強く刺激した。あまりにも強烈で強引で、苛烈な感情は瞬く間に泰華を支配した。  欲しい、欲しい、欲しいと本能が訴え、叫ぶ。ぞくりと肌が粟立ち、喜びの笑みが浮かんだ。あのときから彼女だけが。 「陽野月音だけは、必ず」  手に入れるとも。  執着心にまみれた吐息交じりの声は、熱に浮かされ濡れていた。着実に手中に収めるために、慎重に動かねばなるまい。  それ以外は、些細な問題だ。  虎沢秀喜の思惑も、彼女の願いも、周りの喧騒も。 「それで泰華。情報は集まりきった?」 「まだだ。餌に食いつくまでには時間がかかる。そちらこそ、首尾はどうだ」 「奇跡。としか言いようがない。いや僕たちがあまりにも不甲斐ないからか」  重苦しい溜息まじりに、誠司が弱音を吐いた。それがあまりに深刻そうで、普通なら哀憫すら抱くだろう。奴も顔だけは優男で、女からは高評価だ。 「僕たち凪之と月花が守ってる羽無町で、どうやってここまで勢力を広げたのか。全く検討もつかない」 「虎沢秀喜のことか」 「それに決まってるだろ。……しかも未だに御本人様の行方は掴めていない。はぁ、今から恐怖だよ」 「恐怖か。何にだ?」
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