14.華は月を見守る

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「この大失態、親父がなんて言うか。また嫌味をちくちくちく刺すに決まってる。いや僕が悪いんだけど」 「下働きは大変だな」 「下働きじゃねぇわ。くそ、お前と俺の失態なんだからな」 「はは」  愛想笑いとも嘲笑ともとれる声に、誠司の二度目の溜息をついた。死にそうだな、と率直に思った。実際はそんな玉ではない男なのだが。  怯えて、儚い泡沫のように繊細かつ壊れやすい。柔い姿を見せるくせに、いざとなれば常人が目を背け、嫌悪することすら平気でこなす。そういうところが、好ましい。 「マジで親父への報告するまでに最低限……虎沢秀喜が、月花と凪之に噛みつけるほどの勢力を拡大した原因。それと虎沢秀喜の居場所だけは突き止めないと」 「それじゃあ足りないだろう。お前の親父さんは、虎沢秀喜の首を用意しとかないと満足しないさ」 「否定できねぇ」  ちょうど手に取った報告書に、虎沢秀喜の名前が書かれていた。  虎沢秀喜――月花と凪之を踏み台に、羽無町を支配を目論む新組織。  血気盛んなのは構わないが、少々派手にやりすぎている。波乱を巻き起こす、厄介な悪性の腫瘍は取り除くのが月花と凪之の役目だ。
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