14.華は月を見守る

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 誠司に即答した泰華は、ぴくりと肩を揺らした。  こちらの空気が変化したのを、いち早く察知したらしい誠司は、一方的に通話を終了させた。  彼と長い付き合いが出来ているのも、この察しの良さのおかげだろう。  至極面倒だと、足を組み直した。  資料に一瞬だけ目をやる。『凪之当主殺人未遂』――その文の下に、無情にも書かれた報告。 『凪之は内部分裂が起き始め、月花泰華を最重要人物、容疑者と判断するものが多数。月花に加担した協力者である共に所在不明――』  ――途中で資料を片付けて、カップを片手に微笑みを貼り付ける。男女問わず色めき立つ、華やかで艶やか。優しさも忘れず忍ばせた完璧な花を咲かせる。泰華は自分の魅力を嫌というほど理解していた。  この容姿は利用できるか、反対に厄介でもある。  からん、とベルが鳴ってドアが開く。背後で客人が踏み入るのを聞きつつ、ふと近場のケーキ屋を思い出した。  さっさと帰らないと。彼女には教え込まなければならないこともある。  人を殺す意味もわからず、それでも自分が生きるために何もかもを――己すら捨てる彼女。かわいくて、あわれな彼女。  だが、あの無防備さはいただけない。泰華にだけなら構わないが、そうではないだろう。躾ける必要がある。 「月花だな」  招き入れた客人が前の席へ荒々しく座る。野太い声に嫌悪感を抱きつつ、泰華は無言で笑みを捧げる。目の前の男が、僅かながら顔を紅潮させて目線を彷徨わせるのを、つまらない気持ちで見続けた。  ああ、早く彼女に会わなくては。  これから起きる惨劇より、先にある逢瀬に思いはせた。
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