15.月は逃げる選択をとらない

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 ただ、これで無音の部屋ではなくなる――それは重畳。彼の行き届いた配慮に、頭を下げて感謝した。 「それで、次だが」  どこかワクワクとした様子の泰華に、月音は首を傾げる。  目線を追いかければ、もう一つの白い四角い箱に辿り着いた。  彼の細い指が繊細な動きで、箱を開封する。   何が入っているのだろうかと月音が興味深く待てば、現れたのは。 「けーき?」 「あぁ。お土産にでもと思って。日中暇だったろうし、そのお詫びも兼ねてね」  ふわふわの純白クリームと、つやつやの真っ赤なイチゴ。本物より瑞々しく咲く薔薇に、アザランが散って雨露のようにきらきらと輝いている。飴細工が茨を表現され繊細な美しさを放っていた。  観賞用の芸術品だと言われてもおかしくない。  手の付け方すらわからぬそれに月音は、ぱちぱちとまばたきを繰り返す。  ケーキは施設で何度か用意されて、いつもどおり美味しいという感想もなく完食したが。  これは。 「食べれるんですか?」 「……ふ、っ……食べれるさ」  間抜けな問いに、笑いが込み上げたらしい泰華は寸前で飲み込み平然を装った。
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