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ただ、これで無音の部屋ではなくなる――それは重畳。彼の行き届いた配慮に、頭を下げて感謝した。
「それで、次だが」
どこかワクワクとした様子の泰華に、月音は首を傾げる。
目線を追いかければ、もう一つの白い四角い箱に辿り着いた。
彼の細い指が繊細な動きで、箱を開封する。
何が入っているのだろうかと月音が興味深く待てば、現れたのは。
「けーき?」
「あぁ。お土産にでもと思って。日中暇だったろうし、そのお詫びも兼ねてね」
ふわふわの純白クリームと、つやつやの真っ赤なイチゴ。本物より瑞々しく咲く薔薇に、アザランが散って雨露のようにきらきらと輝いている。飴細工が茨を表現され繊細な美しさを放っていた。
観賞用の芸術品だと言われてもおかしくない。
手の付け方すらわからぬそれに月音は、ぱちぱちとまばたきを繰り返す。
ケーキは施設で何度か用意されて、いつもどおり美味しいという感想もなく完食したが。
これは。
「食べれるんですか?」
「……ふ、っ……食べれるさ」
間抜けな問いに、笑いが込み上げたらしい泰華は寸前で飲み込み平然を装った。
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