15.月は逃げる選択をとらない

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 別に笑われても気にしないのだが。じっと泰華を見つめれば、ふいっと顔を逸らされる。 「……わたしは、貴方にお世話になっている身です。気を使わなくても」 「好いた女に媚を売りたい俺のためだ。きみは何も気にせず食べてくれ」  さも当然のように言ってのけて、器用にケーキを切り分けた。  今日買ったばかりなのか、真新しい包丁を扱いつつ小皿へとうつす。  ことん、と月音の前に置かれたケーキには熟したイチゴと薔薇があしらわれている。断層にもふんだんにフルーツを使われており生クリームから見え隠れしていた。 「それ、言ったら台なしなのでは」 「魔化しは通用しないみたいだからなぁ、潔い方がいい」  笑みを象る唇に、そっと指を添える。品の良い仕草が彼の美しさを際立たせていた。  目が覚める青で蝶と花々が描かれたティーポットに沸騰したお湯を注ぐ姿ですら様になる。  ふわりと紅茶の香りが部屋を漂った。  先程の、不穏で嫌な臭いは、最初からなかったようにかき消えた。  月音の心の中からも霧のごとく薄くなっていく。彼の不信感を強引に消されていく。  それが、酷く恐ろしいのに、その恐怖すら掴めなくなっていった。  
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